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「岐阜市歴史博物館:国宝 薬師寺展」 [展覧会のはなし]

普段、美術系の企画展を観るために…
名古屋市内や豊田市へ出掛けている私ですが…


8月7日(日)…この日は岐阜市内にある
岐阜市歴史博物館へ…
はい、以前からブログをご覧になっている方には
ご記憶にあるでしょうか?

私が和傘を体験制作したり、
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-02-25

友人と一緒に武家の女性に変身した
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-10-24

あの博物館です。

その博物館で開催されているのが…

「国宝 薬師寺展」

地元の新聞である「岐阜新聞」
かくなる我が家も岐阜新聞な訳ですが…
その岐阜新聞が創刊150周年ということで
その記念に開催されたのが今回の展覧会。

度々、新聞でその企画展の紹介が掲載されていて…
切り抜いてはいたのですよ。
薬師寺展開催.jpg
ほらね。

これ読んだら…行きたくなってしまいましてね。

というのも…今回の企画展。
岐阜でなぜ薬師寺展が開催されるのか
不思議に思われた方、いらっしゃるのでは?

それは薬師寺が建立された背景と密接に関係しているんですよね。
薬師寺は、天武天皇が皇后である持統天皇の健康を願って
建てられたお寺です。
さて、その天武天皇が
壬申の乱で、いざ兵を率るとなった時に
天武天皇を美濃の豪族が助けたというのは
ご存知の方、いらっしゃるでしょうか?

私も…高校時代は世界史だったので…
(いや、そういう問題ではないような気もしますが…)

「そこまで深い話を全く知らずにですね…」

確か、中学生の頃ならば…

671年に天智天皇がなくなり
その翌年の672年に、その皇位継承をめぐる争いが
起こったのが「壬申の乱」。
天智天皇の子供である大友皇子(おおとものみこ)と
天智天皇の弟である大海人皇子(おおあまのみこ)の間で
その争いが起こり、結果、大海人皇子が勝利。
大海人皇子は翌年に、天武天皇として即位しました。

ぐらいで終わりましたもの。

なので、その話を新聞や特集記事で読んで
「ほほぉ」と思い、さらに薬師寺の管主である
山田法胤(ほういん)さんをはじめ
岐阜県出身の方々が多く薬師寺にいらっしゃることで…
今回の岐阜市での開催となった薬師寺展。

「これはめったにない機会なのでぜひ観たい」

という訳で出掛けたのでした。

こちらの展覧会。
土・日・祝日は午前11時からと午後2時から
薬師寺の僧侶の方々による説明付きで会場を見学できるそう。
(平日は午前11時、午後1時、午後3時から
 ※講演会のある時などは変更になるのでご注意を)

私もせっかくならば僧侶の方々のご説明を聞きながら見学したいと思って
一緒に会場に入らせていただきました。

さて、最初に会場に足を踏み入れると迎えてくれるのが…

薬師寺展1.jpg

「こ、狛犬?」
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

それがね…

「なんとも親近感のある表情に見えるのは…私だけ?」

狛犬はそもそも「高麗(朝鮮)から来た犬」
という意味だそうで
その原点をたどると、エジプトやインドで聖域を守る
ライオンの像。
日本では当時、もちろんライオンなどはいなかったこともあり
シルクロード、そして海を渡るうちに
大和の人々に身近であった犬に
置き換えられたとのこと。
私が親近感のある表情にうつったのは…
その身近な犬に置き換えられた…
日本らしい顔立ちだからでしょうか?
とはいえ、首の周りにふさふさとした毛や
前足でしっかり地面を踏みしめる姿は
ライオンの原点を垣間みる事ができますね。

続いては…

壁面に、大きくプリントされた薬師三尊像が目に飛び込みます。
薬師寺展2.jpg

薬師寺展3.jpg

中尊の薬師如来に日光菩薩立像と月光菩薩立像。
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

この解説がまたウィットに富んだ解説でした。
というのも…

「この薬師如来さんですが…
 まあ、現代に置き換えるならお医者さん、すなわちドクターですね。
 で、このお医者さんをサポートするのが日光菩薩と月光菩薩な訳です。
 そうですね…菩薩さんはナースですね。
 日光菩薩さんが、日勤のナース、月光菩薩さんは夜勤のナースですね」

これには、見学の皆様、笑いがあふれました。

そして絵巻の説明などを受けつつ…
今回の展示の目玉ともいえるエリアに。

それは…修復後、初公開となる
国の指定重要文化財となる「四天王像」

薬師寺展4.jpg
右:持国天立像
左:増長天立像

薬師寺展5.jpg
右:広目天立像
左:多聞天立像
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

この四天王も、これまでに何度も修復されながら
現代へとつなげられた大切な像。

しかし、この四天王像。
今回、復元修理する過程がなんとも興味深いのです。

というのも…

こちらの四天王像は寄せ木造りの色彩像で
持国天、増長天、広目天、多聞天の4体からなるものです。

現在は、平安時代後期の作と考えられているのですが
この四天王像。元は「破損仏」(頭や胴、腕、足がバラバラの状態)
だったのですが、明治時代に行われた修復により、
持国天、多聞天が復元されて
二天王像として国の重要文化財になった訳です。

ところが、もともと資料などからもこの破損仏が
四天王像であったことが分かっていたこともあって
薬師寺では、この明治の修復以降も修復がままならなかった
胴や足だけとなっていた破損仏を大切に保管。
そういった経緯もあり、「本来の四天王像の姿に」
という以前からの希望もあり、
2006年より復元修理が始まったのだそう。
この復元修理も、当初は2012年の春に完了する予定だったのが
今回の薬師寺展に復元修理が間に合い、
初公開となった訳です。

「これもご縁というか…お導きというか…」

何か見えない力を感じてしまうのは私だけでしょうか?

ちなみに今回の修復で、様々なことが分かったそうで
これまでは持国天とされていた仏像は、実は広目天だったそうで
右腕も、増長天のものということが判明。
明治の修復以降、保管されていた破損仏の中のものが
本来の持国天だったという新事実も。
このことから頭部を新たに制作し、
本来の四天王像に戻ったということです。

こうして、また現代で修復されその美しい姿を拝見すると
自然と背筋がピンとのびるような気持ちになります。

そしてその四天王に守られるように中央に展示されているのが
今回、一番注目されている作品

薬師寺展6.jpg
国宝の「吉祥天女像」
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

この吉祥天女像。
描かれている天女は光明皇后をモデルにされたとも伝えられています。
そして、麻布に描かれた独立画像としては日本最古の彩色画であり
歴史上、大変貴重な資料でもあります。

事実、この日の解説でもそのエピソードが披露されましたが
こちらの吉祥天女像は、そもそも
限られた期間にのみ、拝観が許されるもの
(毎年1月1日~15日に薬師寺ご本尊として
 金堂薬師三尊像の御宝前にお祀りされる)

さらに吉祥天女像本体の状態としても、
そもそも奈良時代に作られたものですから
いくら湿度や空調の管理がされているとはいえ
このような光源のある部屋に3ヶ月近く展示するというのは
大変難しいそうです。
(実際、今回展示するにあたって
 文化庁からの許可をもらうのに大変なご苦労があったとか)
そんな中、関係者の方々のご尽力により、今回の展示が実現したのだとか。

確かに…ガラス張りのケースの中に入ってはいるものの
このような間近で鑑賞できる環境を整えてくださった
関係者の方々には、本当に感謝しなくてはなりません。

さて、この吉祥天女像。まず最初に観てみると…
その、たおやかな姿には思わず息をのみ見入ってしまいます。
そして、その身にまとう衣や履物、そして冠などの装飾の
細やかな描写は圧巻です。

吉祥天女像をじっくりと鑑賞したその後は
解説に耳を傾けつつ、平安時代に描かれたと言われる
貴重な慈恩大師像の絹絵を鑑賞するなどして
最後に見学する私達を迎えてくださった立像がこちら。

薬師寺展7.jpg

国宝の「聖観世音菩薩像」
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

像の高さが190センチ近くあることもあり
まずその存在感にオーラを感じずにはいらせません。
そして次に目に止まるのが、その身につけている衣や
装飾品(瓔珞〈ようらく〉と呼ばれ7世紀後半の仏像い多く見られる)
などの曲線やモチーフの美しさ。

「身体の部分、部分をよく見るとその装飾の細やかさに目を奪われます」

そしてこの、聖観世音菩薩像。
背面も拝見することができます。
そう、360度。ぐるりと聖観世音菩薩像を鑑賞できるのです。

「その際は時計回りに…」
というのは、説明を担当された僧侶さんのお言葉。
私も説明を聞きながら、普段見る事ができない背中の部分を
しっかりと目に焼き付けるように拝見いたしました。

最後に、僧侶の方より読経があり、見学した皆さんと一緒に合掌。
芸術も鑑賞しながら、心があらわれるような…そんな展覧会でした。

さて、この日は、安田暎胤(えいいん)薬師寺長老が
出口の所に座っていらっしゃいました。
なんでも図録をお買い上げすると、長老様からお言葉がいただけるのだとか。

という訳で…私がお買い上げした図録に
長老様、毛筆でお言葉を書いてくださいました。

20代の前半まで書道を習っていたこともあり
書いていただく言葉も気になりつつも…
自然に目で追うのは…

「長老様の筆さばき」

優雅に右へ左へと振れる毛筆。
思わず見入ってしまいました。はい。
そして長老様よりいただいたお言葉…

薬師寺展8.jpg

ありがとうございます。
この日は心があらわれるというか…
なんとも清々しい鑑賞となりました。

もしこれから「国宝薬師寺展」にお出かけされる方がいらっしゃれば
個人的にはぜひ、僧侶の方々の解説の時間に合わせて
鑑賞するのをおすすめします。
さすが薬師寺の僧侶の方々だなと思うほど
そのよどみない解説。お寺の存在や仏像の存在が
身近に感じるほどでした。


国宝薬師寺展は、10月2日まで開催中です。
http://www.rekihaku.gifu.gifu.jp/tokubetutenyakushiji.html

…おまけ…
薬師寺展9.jpg
仏像のお導きか…自然と手に取ってしまった2枚。
あまりにビジュアルが荘厳な雰囲気を漂わせているので
入れる書類等に気遣いをしてしまう…今日この頃。

とはいえ…我が家のクリアファイルがまた増えたのは言うまでもありません。
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whitered

こんにちは。久しぶりに来させていただきました。作品制作の記事も、しっかり読ませてもらいました。タングラムのポスターも、すっきりと洗練されたデザインで、さすがだなと感心しました。細部にこだわりながらも、全体としてまとまりがとれていて、行き届いたセンスが感じられました。
今回の「薬師寺展」も、すばらしい出会いをされましたね。10年ほど前に、息子の下宿先に行く途中、薬師寺や唐招提寺によく立ち寄りました。金堂修復の際には、瓦を寄進したこともあり、薬師寺は特別なお寺です。
西ノ京には、また行ってみたいなと思いました。

by whitered (2011-09-15 09:42) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメントありがとうございます。
作品制作の記事まで目を通していただき恐縮です。
タングラム…私らしい作品に仕上がったと思いますし
ここ最近の大きな作品としては納得の行く仕上がりになりました。

薬師寺展…岐阜でこれだけの点数の貴重な仏像や絵巻物などを
鑑賞できるのは、めったにない機会だったと思います。
whiteredさんも、以前に立ち寄られたことがあったのですね。
私も今回、様々な仏像を鑑賞し、僧侶の方からお寺のことを
詳しく伺うことで、実際に現地へ訪れたくなりました。

それにしても…岐阜と薬師寺が様々なご縁で結ばれていることを知り
今回は本当に勉強になりました。
by ユキヲ (2011-09-17 14:13) 

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