「それも…味」

まあ、至ってどうでもいい話…














某日…
私の実家のある一宮市の病院に入院している人のところに
お見舞いに出かける。

「私、ひとりで」

尾張一宮駅からはバスで５つぐらい先の低留所にある病院へ…

最近、歩くようにしている。
まあ、前記の通り、いろいろなものを食べ過ぎているし（苦笑）
名古屋だったらそうでもないけど…

「一宮市だと話は別で…」

生まれ育った街だからね。一応。
で…また、いいのか、悪いのか…その病院までの道のりが、
私が受験生時代に通っていた教室に行く道でもあり
なおかつ、私が一時期一人暮らしをしていた所に行く道でもあって…

「最近、あの辺りの風景がどうなったかも気になり…」

結局、駅から歩く。

昔…マンションの１階にあったフルーツショップ。
病院の隣という立地条件もあってか、
今は介護用品のアンテナショップになってた。

「あそこ…昔、よく天津甘栗買いに出かけたんだよね」

フルーツショップだったこともあり
栗が大粒で…１粒、１粒食べる度に満足に浸ることができ
とてもお気に入りだったのでした。

「残念だなぁ…」

この辺りも少しずつ景色変わってるなぁ…少し寂しい。


さて桜が満開になると結構な人出となる
一宮市では桜の名所とも言われる大江川にかかる橋を渡り…

一人暮らしをしている時に、何度か食べたラーメン店の前を通り（笑）
大きな交差点にさしかかったらくるりと曲がって入院している彼女を見舞う。

２人部屋なのだけど…数日前に隣にいた方が退院したそうで…
実質、１人部屋と変わらなかった。
彼女は３日前に手術を済ませたとは思えないほど
見た目には元気で、顔色もそれなりに良かった。

話を聞いたら…
『５０分少々で終わったの…動脈などへの癒着もなくて
　予測していたよりもスムーズに終わったの』

だそうで…まあ、開腹しただけあって、
まだ笑ったりするとお腹は痛むようだけど…

『小学校に入学する前に体験した盲腸の手術よりは
　ぐんと痛みが少ない気がする』と彼女。

「まぁ、それまでにいろいろな痛みも経験したし…
　何より、医学は進歩しているからね」

まあベッドの数に限りがあるというのもあるのだけれど
彼女の場合、順調に回復すれば、１週間後には退院だそうで…

『何だか入院生活が短いのが逆に心配でね』と苦笑いしていた。

入院して数日経つそうで…毎日テレビを観る時間の方が圧倒的に多い。
無理もない。まだ身体の自由がきかない訳だし…
なのでちょうど東京旅行から戻ってきたばかりだった私は
お土産を渡しながら、あれこれ、東京であった話をしてみた。
彼女も久しく遠出をしてないせいか
私が話すことを興味津々に聞いてくれて
ちょっと嬉しいと共に、逆に疲れされてしまったのではないかと
心配になりつつも…結局、３０分ぐらいあれこれ話をしてみた。

そういえば彼女も一宮市で生まれ育っているので
来るまでに見つけた、なくなってしまったフルーツショップの話をしたら
彼女もそこの天津甘栗を食べたことがあるようで

『最近、あの辺り通ることないもんだから…
　そっかぁ…あそこの甘栗、もう食べる事できないんだね』

と、彼女からそんな言葉を聞いたら
妙にしみじみ。
そうだよね…やはり残念だよね。

「いやまぁ何というか…どうしても勝てない味ってあるじゃない？
　同じ栗なら、別に某店のマロングラッセとか、栗きんとんとか
　ある訳じゃない？それをさ…どうしてか天津甘栗じゃないと
　心満たされない場合もある訳で…
　それと…このご時世。美味しいものなんてたくさんあるんだろうけど…
　駄菓子屋で売っていた
　ギラギラと光る照りのある１０円イカとかさ（笑）
　あれが美味しいと思ってた時期は確実にあったし
　困ったことに、あれ…無性に食べたくなる時ない？」

『それ…分かる…』

駄菓子ってほとんどが、アミノ酸全開なんだろうし（苦笑）
身体にはあまり良くない部類なんだろうけど…
ダメなんだよね。私達の小さい頃って、
ああいう味と思い出がある意味セットだから…

「それも味のうちなんだろうね？」

『たぶんね…』

大人になってから知る味もあるんだけど…
大人になって、消えて行く味もあるのだね。

それから、どうでもいい話をいくつかして…

「お大事にね」と一声かけて病院を後にした。

帰り道…

なんだかぼんやりと昔の味についていろいろと思い出しながら
ぼちぼちと駅まで歩きました。