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「神奈川県立近代美術館 鎌倉:建築家 坂倉準三展」 [展覧会のはなし]

さて…すっかり神奈川県立近代美術館鎌倉のことについて
書き込んでしまったので
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2009-09-09
池から美術館を見る.jpg
(いや予想以上に…とても良いところだったので…笑)
結局、別に書く事に…という訳で、今回は企画展のことを書きます。

なぜ私が、坂倉準三展に行こうと思ったのか…

理由はいろいろあるんですよね。

後に書く予定ですが日本を代表するプロダクトデザイナー「柳宗理」氏。
実は柳氏が一時期在籍していたのがこの坂倉氏の事務所である
坂倉準三建築事務所。

さらに…
現在、明治村が安住の地となった旧帝国ホテルの正面玄関。
(以前、ご紹介しましたね…かなりの長文で…爆)
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-12-06
これを設計した、フランクロイド・ライトが掲載されている
カーサ・ブルータス特別編集本
「誰にでもわかる20世紀建築の3大巨匠」にライト共に建築家として
名があがっていた「ル・コルビュジエ」の生涯も編集されていて、
自然と読み進めているとなんと以前に訪れた国立西洋美術館を
設計している人だと知る。
(フランス政府より返還される松方コレクションを収蔵公開する
 施設が必要となり、フランスが縁となり、当時活躍していた
 コルビュジエに西洋美術館の設計を依頼する)
そのコルビュジエのもとへ弟子入りし、フランスで建築を学んだのが…

「坂倉準三」

先にもお話しましたが年々、その価値が評価されている
日本のモダニズム建築の代表

「神奈川県立近代美術館 鎌倉」
坂倉準三展2.jpg

その設計をした人の展覧会がその美術館で開催されているというなら…

「またとないタイミング」

神奈川県立近代美術館 鎌倉は構造と省スペース故に
展示内容も限られている美術館です。
(耐震面や構造上から、彫刻などの重量のある作品展示はできないとのこと。
 このことから近年は、現代美術を中心とした展示にシフトチェンジしているそう)

「存続が決定したとはいえ、鎌倉の美術館も、できるだけ早く観たかったし…」

という訳で出かけた訳です。

ま、もうひとつの理由は…

「一度、鎌倉に出かけてみたい」というものもありましたけどね(苦笑)

さて、前置きが長くなりましたね。すいません。
はい、今回の展覧会の話をしましょう。

今回の展覧会は、坂倉氏の生涯にわたる仕事を
時代を追って紹介されていました。

まずは…
坂倉氏が建築家として世界に輝かしいデビューを飾った作品である
1937年のパリ万国博覧会の日本館から。

木製の格子が日本の「なまこ壁」を彷彿させるとか…
高床な部分が桂離宮を彷彿させるとか…
その洗練された設計に、世界が唸ったという…そういう訳です。
日本館.jpg
(図録に掲載されていたものを撮影しました)

ちなみにこちら、万国博覧会で金賞を受賞しています。
金賞賞状.jpg
(図録に掲載されていたものを撮影しました)
図録ではなぜかモノクロ掲載なんですけど…
会場では実物が展示してありました。
パリらしくフォントの色も赤と青がところどころ使われており…
中央の円のモチーフはキラキラと光るゴールドで…

「素敵でしたわ」

それまでの万博の日本館と言えば…
「ザ・ニッポン」というような神社仏閣かと思うほどの王道建築。
ところが、このパリ万国博覧会では
平坦ではない会場の土地が日本館の建設予定地だったりと…
「日本国内のコンペで決めた建物が現場で合わない」という事態に…
そこで登場するのが坂倉準三。
フランスに飛び、コルビュジエのアトリエを借りて
プランを再度練り直し…そして完成したのがこの日本館という訳です。

このパリ万博…
フィンランド館はアルヴァ・アアルトが設計。
そしてスペインの内戦で揺れていたスペインは
パブロ・ピカソの「ゲルニカ」が展示された
何かと話題が多い博覧会でもありました。

さて…苦しい戦争の時代を乗り越え
戦後の復興、そして高度経済成長と共に造りあげたのが
数多くの公共建築…
そして巨大都市の駅前などの開発まで…
図面や写真などはもちろん、模型なども含め
約200点の資料とともに紹介されておりました。

お恥ずかしながら私は坂倉氏を知ったのはここ1年ぐらいの話で…
近代美術館や国際文化会館など…
国際文化会館.jpg
「国際文化会館」(図録に掲載されていたものを撮影しました)

本当に代表作ぐらいしか知らない状態だったのですが…

まさか…
岐阜県の公共建築をこれほど多く手がけていらっしゃるとは…
岐阜市民会館.jpg
まずは…岐阜市民会館
(図録に掲載されていたものを撮影しました)

そして…
羽島市庁舎.jpg
羽島市庁舎
(図録に掲載されていたものを撮影しました)

それもそのはず。
坂倉氏は岐阜県羽島市の醸造元の四男として生をうけている。

「ああ、それで羽島市庁舎な訳ですか」

妙に納得(笑)

あと名古屋近鉄ビル。

「これも坂倉氏の設計だったとは…」

現在は近鉄Pass'eとして10〜20代の女性をターゲットにした
商業施設として近鉄ビルも活躍しております。
http://www.passe.co.jp/

「坂倉氏がご存命だったら…さぞかし、びっくりでしょうね(笑)」

あ、あと企業向けの建築物も…
出光給油所。
出光給油所.jpg
(図録に掲載されていたものを撮影しました)
1つ、1つ…給油所の建物が違います。
ちょっとアメリカンなテイストもあり…給油するのが楽しくなりそうですね。

とはいえ…今回の中で私が一番印象的だったもののうちの1つが…
1956年に制定された「首都圏整備法」にもとづき
1960年6月より決定された「新宿副都心建設事業」
これには圧巻でした。

この新宿副都心建設事業というのは、
都市機能を分散し、新たなビジネスセンター作るというもの。
当時、移転した淀橋浄水場の跡地から新宿駅西口駅前広場の
約96万平方メートルの区域を整備するという当時としては
大規模な計画でありました。

地下1階には、当時の国鉄をはじめ、小田急、京王、地下鉄の各コンコースをはじめ
人々が周囲の商業・オフィスビル間との移動ができるような通路を設け
そして地下2階には駐車場を…
さらに地上では、自動車道路およびバスターミナルの整備も
行わなくてはならない。

これらに加えて、最大の焦点となったのが…

「巨大な地下空間の換気システム」

坂倉氏はどのようにクリアしたのか?

実は長軸60m、短軸50mの楕円形の開口を地上へと貫くことにしたのです。
結果、この巨大な筒のペアは西口広場を代表する象徴的な造形物となる訳です。
駅前計画.jpg
(図録に掲載されていたものを撮影しました)

「都市計画までやってのけてしまうとは…」

なんとも頼もしい建築家。世界で認められるのも納得です。

そしてもうひとつ…印象的だったのは…

「ペリアン女史との関わり」

シャルロット・ペリアン…
フランスの建築家でありデザイナーでもある方。
この方も実はコルビュジエのお弟子さんでもありまして…
実際、坂倉氏と共にお仕事をしております。

そんな縁が日本のデザインの将来を明るい方へと導きます。
1940(昭和15)年に日本の商工省が外貨獲得のために立ち上げた
輸出工芸指導の装飾美術顧問として招聘されたのが…

「シャルロット・ペリアン」

これについては坂倉氏の尽力が大きいそうです。
で、ここで出てくるのが…

「柳宗理」なんですよ。

なぜって思うでしょ?

柳氏がペリアン女史の日本視察に同行することになったのは
フランス語が理解できたからだとか…
(当時、柳氏はコルビュジエの原書を読むためフランス語を勉強していたのだそうで)

ま、それももちろんあるでしょうけど(苦笑)
実は当時。日本輸出工芸連合会の嘱託となった柳氏は
ペリアン女史の日本視察に同行することになったんですね。
そしてこの後、柳氏は、坂倉準三建築事務所の研究員となるのでした。

にしても…
「ペリアン女史が日本に来てなかったら…
 また日本のデザインは変わっていたでしょうね」
そう考えると、建築だけではない…坂倉氏の功績は大きいですよね。
いやはや…本当。勉強になった展覧会でした。

しかしねぇ…残念なことが…

実は、この会場の他にもうひとつ「パナソニック電工 汐留ミュージアム」にて
開催されているのが…
坂倉準三の住宅、家具、デザインの仕事をとりあげて紹介している
「建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン」
http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/exhibition/09/090704/index.html

そう。こちらの企画展がまた…
「建築だけではない坂倉氏の功績が分かりそうでね…」

実は9月27日(日)まで開催中。
こちらも同じぐらい観たかったわ…

鎌倉の会場では購入はできなかったのですが
汐留ミュージアムで開催の企画展の図録の見本が置いてあったので
ぱらぱらと見せていただきましたが…

いやもう再録とはいえ、
あの東京オリンピック公式ポスターを制作したことで有名な
グラフィックデザイナーの亀倉雄策氏の寄稿とか…
あとは私の大好きな藤森輝信氏も木造モダニズムとして寄稿されているし…
(以前、円空展で観た建築史がご専門のお方。
 タンポポハウスなど…面白い建築をされるです)
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2009-03-21
なんといっても…

再録とはいえ、柳宗理氏のペリアン女史についての寄稿も載っている。

「なんだ!この私にストライクゾーンな図録は!(笑)」

ま、一般書店でも、この汐留ミュージアムで開催の企画展の図録は購入可能だそうなので…

「よっし!ならば書店に!」と思って…

ジュンク堂に行ってもみた。
三省堂に行ってもみたけど…

「なくてね…(笑)」

やはりというか…予想通りというか…
あのジュンク堂でもないなら仕方ないなぁ…

「今度愛知県美術館に出かけた折にでもお買い上げしますかね」

あそこの地下のNadiffなら確実に置いてあるでしょう(笑)
http://www.nadiff.com/home.html

いやはや…良い展覧会でありました。
ええ、ちゃんと今回の図録もお買い上げ…
図録.jpg

さて、続いては…
きほどから坂倉準三展でもちらほら登場していた
柳宗理氏の企画展が開催されている
横浜みなとみらいにあうる横浜美術館に出かけることにしましょう。

おっと、その前に…
ランチタイムとなったので、お食事といたしますか…

という訳でマイペースにつづく(笑)
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whitered

おはようございます。板倉順三~柳宗理~シャルロット・ペリアンと繋がる系譜を、まるで明智小五郎のような鋭い感覚で追求しているユキヲさんに脱帽です。建築関係にはど素人の私も勉強させてもらいました。いろんな建物に出会ったときに、だれが創ったのだろうという問題意識を持ちたいと思いました。
by whitered (2009-09-12 08:47) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメント、そして長文の記事を読んでいただき
本当、ありがとうございます。
私も元々は建築家のライトから調べて…それからコルビュジエ
それからコルビュジエの洗礼を受けた(笑)日本の建築家と
どんどん派生していくうちに…同時に興味を持っていた柳宗理と
線が交わった時には…
思わず「おぉぉっ」と感嘆の声をあげてしまいました(笑)
建物は…その建物がある場所に行かなければ観ることは
できませんが…それ故の楽しみもあるなと最近つくづく思います。
そうそう、予備知識なしで出かけた先で…
「これってひょっとした○○さんの設計?」なんて
予想をたてて推測してみるのも最近ちょっとした楽しみです(笑)
建築についてはまだまだ私も知識を吸収している最中ですが…
非常にその過程が楽しみにも思える今日このごろです( ´艸`)
by ユキヲ (2009-09-12 22:42) 

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