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「神奈川県立近代美術館 鎌倉へ行く」 [建築etcのはなし]


ま、こちらで開催されていた
坂倉準三展の方とかは移動中にメモしてたし…
図録に思いのほかいろいろな方が様々な視点で
寄稿されてたおかげで本当、勉強になりました。
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2009-09-11
(↑コレね)

ふぅ。そんな訳で、ようやく書きます。

8月29日(土)
午前10時半過ぎに鎌倉駅に到着した私。
細い道の「小町通り」をマイペースに歩きながら到着したのは
「鶴岡八幡宮」
お参りをしてから向かったのがこちら。
近代美術館鎌倉.jpg
「神奈川県立近代美術館 鎌倉」
1951年11月に日本で最初の公立近代美術館として
開館した美術館。
ここの美術館の不思議なところは…

「神社の境内にあるというところでしょうか?」

こちらの美術館の設計は
坂倉準三展1.jpg
今回出かけた企画展でクローズアップされている坂倉準三氏。
せっかくなので…この建物のお話からしたいと思います。
当時、外交官出身だった神奈川県の内山知事は、
美術などの文化に造詣が深かったこともあり
美術館の建設に着手します。
ところが時は戦後の物資不足。
さらには県の財政も厳しく、新築は難しくもありました。
「できれば横浜市内の敷地に…」という案もあがるものの
適当な場所が見つからず…

そんな折、鎌倉の鶴岡八幡宮の宮司さんの働きかけにより
平家池のほとりの場所が提供されることに。
このことにより美術館の建築のめどがたち…
坂倉準三をはじめ、
前川國男(代表作:京都会館)
山下寿郎(代表作:霞が関ビル)
谷口吉郎(代表作:東京国立近代美術館。子息は豊田市美術館を設計した谷口吉生)
吉村順三(代表作:奈良国立博物館新館)の5人による
当時としては大規模な指名コンペが
行われることになったのです。

ほとんどが本格的なコンクリート造を想定した
設計案だったのに対し
鉄骨造で建設費も他案の半分に近く
さらには機能的にも優れているということで
決定したのが坂倉氏の設計案だったのです。

しかし、鉄骨とはいえ、戦後の当時のご時世。
資材も乏しかった訳ですが…
そこは坂倉氏のアイデア。
三角形を基本単位とする構造の骨組みである
「トラス」を活用することを思いつきます。
短いトラスを鋲留めでつなぎあわせ
さらに外観はボードをアルミの型枠にはめて
床は波板鉄板にコンクリートを打つなどして
省資源、軽量化へとつなげ、設計に知恵をしぼったのです。
近代美術館の構造.jpg
■図録に掲載されていた当時撮影された鉄骨の写真を撮影しました■


正面玄関の方から入ると…
坂倉準三展2.jpg
「こじんまりとした美術館」というのが第一印象。
中庭を核にして展開される空間はとても新鮮で…
とはいえ元々こじんまりとした美術館なので
階段をのぼり、入口を抜けて少し歩けばすぐに
展示スペースへ…。
しかし、外観からのイメージとはズレが生じるほど
思いのほか奥行きのあるスペース。
こちらとしては、ちょうどいいとというか…
非常に居心地の良い空間でした。
そして、展示内容を鑑賞し、移動していくと
次第に次に鑑賞する展示物が
右手から自らの視界に飛び込んでくるという具合。

「なんとなく人間の好奇心をもくすぐられているような感覚」

にしても…この空間。なんとなく私にはデジャヴなのです。

それは…「国立西洋美術館」
http://www.nmwa.go.jp/jp/index.html

そう、一度だけ、こちらを訪れたことがありました。
2000年の春…
「ピカソ 子供の世界展」というのを観に出かけたから。

しかし、そもそもこの時の東京旅行は関東の友人に逢うためと
国立科学博物館がメインで(月の石を観た…笑)
失礼ながらここはついで状態でして…(爆)
かなり疲労困憊だったクセに常設展も観てまわりました。

その際、とにかく館内が広いのにも驚きましたけど…

「迷路みたいな空間」

に非常に驚きましたし、
東海圏では体感したことのない美術館として
私の中ではとても印象に残ったのでした。

そう…あの国立西洋美術館の空間、そしてあの外観…といえば…

最初にカーサ・ブルータス特別編集本の
「ニッポンのモダニズム建築100」
http://magazineworld.jp/books/8533/
この本で初めて神奈川県立近代美術館 鎌倉を観た際に
直感的に…

「国立西洋美術館に似てる」

と思ったのです。それもそのはず…

『設計したのは坂倉氏の師であるル・コルビュジエ』
(注:フランスを中心に活躍した世界的な建築家)
会場である美術館の1階にも当時、弟子の仕事ぶりを観てまわる
コルビュジエの写真が展示してありました。
坂倉準三展3.jpg

さらには…

『日本側協力者として坂倉準三氏、前川國男氏、吉阪隆正氏が関わる』

妙に納得(笑)

そもそも坂倉氏は…
「コルビュジエのもとで修行していらっしゃるんですよね」
とはいえ、文学部で美術史学科を学んだ経緯があり
結果、西洋の建築に興味を持ちコルビュジエのもとに
弟子入りしようと、フランス行きを決意したという
建築家としては稀な経歴を持つ坂倉氏については…

「度胸あるなぁ」というのが率直な感想。

しかし、その稀な経歴のせいなのか
はたまた「美術史学」というものを深く学んだことが
影響しているのでしょうか…
物事を柔軟にとらえるというか…何というか…

「彼の建築にはそれぞれの地域に根ざしたというか…
 人間味あふれる建築を生み出している感じがするのです」

私もいろいろ好きな美術館はありますが…
ここの美術館はとても心が落ち着き、
そのことに逆に驚いたほど。

「何だろう?この居心地の良さは…」

圧倒的に市街の美術館とは違った雰囲気があります。

もちろん、通常の美術館に比べて展示スペースも狭いですし
全体的にこじんまりとしています。

ただ、なんとなくその理由はいろいろある気がするのです…
第一に池側にあるピロティ
近代美術館と池.jpg
「ここは本当に美術館?」と思うほどの空間。

なんていうんでしょう…
なんだか神聖な場所に足を踏み入れた際に感じる
思わず背筋がピンとのびるような感覚を覚えたり…
それでいて緑に包まれるような心休まる空間。
池に咲いてた蓮の花.jpg
「池と、そこにある蓮のせいですかね?」

この日も見事に白い蓮の花が
太陽の光を浴びながら揺れていました。

それと忘れてならないのが…美術館1階の彫刻たち。

様々な彫刻が1階には展示されていましたが…
なんといってもこれが一番でしょう。
イサムノグチ.jpg

中庭の中央に配置されている彫刻。
「イサム・ノグチ作『こけし』」
2階から見下ろしてもいいんですけど…
1階に降りて、正面から向かいあうと…

「自然と顔が笑顔になってね…」

心和みます。

こんな近代美術館ですが…
以前には、美術館の再編計画があり
一時期は消滅の危機にも直面した美術館でもあります。

「美術館としての運営を工夫したり
 部分的な改修を行ってきたが
 エレベーターもない、講堂もない美術館は
 現代には厳しいのではないか?」

主な理由はこんなことから。
しかし…歴史的保存地区に指定されたことで、
増築や立て替えが認められなくなったこと
そして何より、美術館の運営委員さん達の反対もあり
現在は、葉山に新設された新館と共に
美術館としての役目を果たしています。

そう。近代美術館は建築物としての価値も認められているのです。
その理由は「DOCOMOMO」にあります。

あ、DOCOMOMOとは…決してDOCOMOの誤植ではなく…(笑)

オランダの教授さんの発案で設立された
世界中のモダニズム建築を調査・保存を呼びかけている
れっきとした国際学術組織。
「20世紀のモダン建築、敷地周辺環境の調査および保存」の
英文字表記
Documentation and Conservation of buildings,
sites and neighborhoods of the Modern Movement
この頭文字を取ったものがDOCOMOMOなんです。

日本にも支部がありまして…
http://www.docomomojapan.com/index.html
保存すべきモダニズム建築を2000年に20選
2003年には100選として選定しているんですが…
この、20選に入っているのが…

「神奈川県立近代美術館 鎌倉」な訳です。

DOCOMOMO 20選の影響で建物の文化的な重要性が
多くの人に伝わったこともあいまって
近年では見学者などが増加しているそうです。

が…まだまだ楽観できないことも…
それは近代美術館故の立地条件から。
実は近代美術館の敷地は鶴岡八幡宮から借り受けたもの。
2016年には、その賃借契約が切れてしまうのです。
まあ、確かに大人の事情はいろいろあるけれども…

「これほど自然と融合した、人の心に寄り添う美術館が消えるのは惜しいです」

いや…いろいろ言いたいことはあるけれど…

「ここに来れて良かった…」

今の季節だから余計でしょうか…
池の蓮の葉も花も…とてもいきいきとしていて…
そして晴れ女の特権というべき爽やかに晴れ渡る青空に
また近代美術館のモダンなラインがくっきりと浮かびあがる…
池から美術館を見る.jpg
美術館の館内を後にしても…
自分の視界に飛び込んだ美術館と周囲の風景の
絶妙なバランスがとても心地よくて…
久しぶりに去りがたい気持ちになりました。
立入禁止の新館.jpg
にしても…別館が耐震性の問題から
立ち入り禁止になっていたのは非常に残念でしたけど…

「また来たいなぁ…いや、また来よう」

そう思いながら美術館を後にしました。

あれ?…美術館のこと書いてたら…

企画展のことが全く書けてない(莫迦)

という訳で追々、マイペースに書いていこうかと…(;´▽`A``
予告編としてざっくり紹介しておくと…
坂倉氏は岐阜県出身。
なので、この東海圏にも設計した建物が多いことを
会場であたらめて知ることができました。

そのあたりも含めて…マイペースに続きます。
気長にお待ちください。
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whitered

こんばんは。4枚目の写真を見て、私も国立西洋美術館に似てるなと思いましたよ。板倉さんは、コルビュジエのお弟子さんだったのですか。ものの少ない時代に、無駄がなく、しかし精神的なゆとりを持たせた建築ですね。立地条件が歴史の深い場所だからもあるのでしょうが。西洋美術館の方は、三度ほど行きましたが、鎌倉の近代美術館にはまだ行ったことがありません。機会があれば行ってみたいです。イサム・ノグチの『こけし』本当に可愛いですね。
by whitered (2009-09-09 01:56) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメントありがとうございます。
あ、似ているというご意見をいただけて嬉しい私です( ´艸`)
そうなんですよ…坂倉さんをはじめ…
コルビュジエの元で建築を学ばれた方は
日本人でも結構いらっしゃるんですよ。
代表的な方だと先に出した前川國男さんとか
(前川さんはなんといっても、京都会館が有名ですね…)
それと丹下健三さん(広島平和記念公園や新都庁etc…)
でも、それぞれコルビュジエのお弟子さんでありながら
ちゃんと自分なりにコルビュジエさんの教えを
噛み砕いて…「らしさ」も兼ね備えた近代建築を
成し遂げていらっしゃるところが素敵ですし…
どこかに「日本らしさ」も見え隠れするところがまたいいですね。
この美術館は時代の背景ももちろん関係しているでしょうが…
とにかく「時代と土地の条件を最大限に活かした美術館だなぁ」
というのが第一印象でした。
私は先日出かけましたが、周囲は木々や草花に囲まれていますので
四季折々の素敵な風景が楽しめる、趣きある美術館だなぁと
思いました。機会があればぜひぜひ…お出かけください。
イサム・ノグチの「こけし」…
近代建築や柳宗理さんなどの近代の工業デザインなどを
ひも解いていくと…必ず出てくるイサム・ノグチさん。
なので、余計に「ここにもノグチさんが!」と
嬉しくなりましたね。
何より、作品の持つ、おおらかな雰囲気には脱帽でした(*´σー`)
by ユキヲ (2009-09-09 22:59) 

ユキヲ

コメントに誤解を招く表現があったので
遅ればせながら補足コメントです。
上のコメントの文中で、丹下健三氏がコルビュジエの元で
建築を学んだと思われるような表現をしましたが
これは間違いです。
丹下氏は、コルビュジエの弟子である前川國男氏の
建築事務所の元で働いていたというのが事実で
コルビュジエの影響としては著書を読み
感銘を受けて建築家を目指すことになったのはもちろん
自らの建築物に反映していったというのが事実です。

by ユキヲ (2009-09-13 02:19) 

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