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「明治村を歩く〜3丁目付近:芝川又右衛門邸〜」 [建築etcのはなし]

さて、「西郷從道邸」をはじめとする1丁目付近を散策した私達
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-12-03-1
次に向かおうとしたところは…3丁目。
「森鴎外・夏目漱石住宅」から下る道が意外に石の階段で急なので…
ヒールなどを履いていらっしゃる方はご注意くださいね。

2丁目を少し横切って…いざ3丁目へと足を踏み入れます。
最初に目に入るのは…「北里研究所本館・医学館」
北里研究所.jpg

「北里研究所本館・医学館」------------------------------

こちらは日本の細菌学の先駆者である北里柴三郎が
大正4年(1915年)に芝白金三光町に建てた研究所の本館。
東京大学で医学を学んだ北里柴三郎はドイツに留学。
19世紀後半に、病気と微生物との因果関係を研究していたコッホのもとで
細菌学の研究を始めたことにより、破傷風菌の培養・破傷風の血清療法を発見。
学会から認められる存在となります。
帰国した彼は明治25年(1892年)に福沢諭吉の後援を得て
日本初の伝染病研究所を設立。
大正3年(1914年)には同研究所が東京大学に移管されると
独自にこの北里研究所を創立しました。
北里自身が学んだドイツの研究所の流れを汲む形で、
こちらの建物も、ドイツバロック風を基調にした建物となっています。
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研究所なのに…趣きある佇まいで…
色も淡い色が壁面に塗られており…これがまた青空に映えます。

「ここの建物も好きだなぁ」
と思いつつ、到着したのは本日の大本命「芝川又右衛門邸」でございます。
<芝川又右衛門邸.jpg

「芝川又右衛門邸」-----------------------------
現在の兵庫県西宮市甲東園に明治44年(1911年)に大阪伏見町にて
唐物商(輸入業)を営む芝川又右衛門の別荘として建てられたのがこちら。
先代が大阪伏見町に唐物商「百足(むかで)屋」を開業し、
三井八郎右衛門・住友吉左衛門などとともに明治13年(1881年)には
日本持丸長者鑑(現在の長者番付)に、名を連ねた豪商の一人でもあります。
又右衛門の所有する敷地は田畑には適していない土地だったこともあり
明治29年(1896年)には果樹園「甲東園」を拓き、明治44年(1911年)に
別荘としてこの建物を建築。さらに日本庭園や茶室等を整備したことから
関西財界人達の交流の場ともなっていたそう。
そして、兵庫県西宮市という立地条件もあいまって、
当時のタカラジェンヌや越路吹雪さんなども
こちらの邸宅でダンスを楽しんだりしたそうです。
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ちなみにこちらの建物。
所在地を見て「あれ?」と思った方、その通りです。
あの、阪神大震災の際にこの建物も被害を受け、
平成7年(1995年)の秋には解体されています。
しかし、この明治村への移築が決まり、平成17年1月に修復工事に着手。
平成19年9月に無事に施工したという次第です。

西郷邸同様、こちらでもちょうどツアーガイドをしてくださるとの
ことでしたので、お願いして参加させていただきました。

いや、ここはガイドさんに案内していただいて本当に良かったです。
初めて見る洋館建築な上に、新しい発見もたくさんありました。

ちょっと長くなりますがお時間ございましたらおつきあいください。


この芝川邸の設計者は当時、京都工等工芸学校図案科主任で後に
京都帝国大学建築学科の創設者となる武田五一。
名古屋高等工業学校(現在の名古屋工業大学)で校長をつとめるなど
東海地方にもゆかりのある方。
この芝川邸とは最後まで深く関わっていたと言われており、
創建時から、度重なる増改築の際の図面や家具の設計図が数多く遺されています。
その証拠に、こちらの建物の1階のフロアには、ランプなどの設計図が
きちんと額におさめられて展示されていました。

武田五一は明治34年(1901年)から約2年半欧州へ留学を経験。
帰国直後は貿易商・福島行信の依頼を受け、当時欧米で流行していた
アール・ヌーボー様式を取り入れた住宅を日本で初めて設計しています。
その後、あの国会議事堂建築視察のため再度欧米視察をし、
帰国後、芝川又右衛門よりこちらの別荘の建築依頼を受け、
ヨーロッパのグラスゴー派やウィーンのゼツェッションと
なんと日本建築に用いられる「数寄屋」などを融合したこの洋館を建てています。

その特徴がよく現れているのがこのダンスホールに使われていたこの1階のホール。

数寄屋造り.jpg

天井には、網代と葦簾を用いた市松状の模様に仕上げたものがあり
この部分だけ見るととても洋館とは思えません。

実は今では外壁もモルタル仕上げとなっておりますが、完成当時は、杉皮張。
芝川家の記録によれば、実際に明治44年に完成した当初、建物を見た家族達は
「畳がリノリームになっただけで、まるで洋館らしいところはない」
と言葉を遺しているのだそう。うむ、率直な感想ですね(笑)

とはいえ、なぜ最初は杉皮張だった外壁がモルタルになったのか?

それは、関東大震災が鍵となっています。

関東大震災の際、木造建築が火災で大きな被害を受けたことから
外壁にスパニッシュ風な壁を用いることが大正末から昭和初期にかけて
特に関西を中心に大流行したのだそう。
この流れに沿う形で、この芝川邸もモルタルを外壁にほどこした様式へと
変身したとのこと。今の姿の方が確かに洋館らしい姿ではありますね。
ちなみに日本でスパニッシュと呼ばれる建築様式は、
スペイン建築のことを指すのではなく、スペイン系建築様式の影響を受けた
アメリカの建築様式に影響を受けたという、
ちょっとまわりくどいバックグラウンドですがね(苦笑)

さて、先にこの洋館が関西財界人達の交流の場となったことを書きましたが
主に皆さんが集まっていらっしゃったのはこの1階のホール。
ダンスホールとして使われることが多かったとのこと。
それを見越してか、こちらの壁には、
ダンスで踊り疲れた客人が腰をおろすことができるよう
ベンチが造り付けられていました。

ベンチ.jpg

ベンチの横の暖炉には睡蓮などもあしらわれており、
アールヌーヴォーを取り入れた武田五一独特のテイストが見え隠れします。

別室にある浴室の天井にある換気口には、
典型的なアールヌーヴォーテイストがありました。

風呂場の換気口.jpg

なんと、4匹のトンボの姿なのです(見えますか?)
アールヌーヴォーと言えば…私なんかですと、ガラス工芸で有名な
ガレの蜻蛉やトンボ、そして蝶などをモチーフにした作品がふと
思い浮かぶのですが…
そこから考えるとこの換気口はまさにアールヌーヴォーですよね。

さて、続いては細かな部分もご紹介しましょう。
こちらの建物、部屋数が多いのでこんなものもありました。

呼び出し盤.jpg

「使用人に用事がある際に呼び出すための表示板」
部屋の各所にボタンがあり、押すと、部屋の番号が表示されるというもの。
面白いですね。

キッチン.jpg
あと、こちらはキッチンなんですけど…
「意外にこぢんまりしてませんか?」
まあ、こちらの洋館は本宅ではなく、あくまで別荘のようなものだったので
お食事などもケータリング(当時は出前ですかね?)で済ませることが
ほとんどだったため、一般家庭で使われているキッチンのようなものではなく
必要最低限の炊事ができれば良いという考えだったため
このようなコンパクトなサイズになったようです。

「お料理をホールに運びやすいように廊下に窓が付いているところが
 機能的でもあり、おしゃれですね」

さて、今度は2階へとご案内。
天井の高い和室に案内されたかと思うと…

隠れた暖炉1.jpg
「おや?小さい押し入れ?」と思うようなかわいらしい襖があるではありませんか。
これが開けてみると…

隠れた暖炉2.jpg
「襖越しに暖炉(笑)」
面白いですよね。これ。
こちらの明治村に移築する前の解体の際、ここに暖炉はなかったのだそう。
というのも、あの阪神大震災の被害でこの暖炉も崩壊し、
崩壊直後は、1階の暖炉に積み上がっていたのだとか。

「良かったですね。無事に修復されて」

茶をもてなすことも大好きだったという芝川氏は
ここの和室でよくお茶をたてられたのだそう。
甲山から東に位置していたこの芝川邸。

「2階からの景色を眺めながらのお茶もまた趣があって素敵でしょうね」

ライトに似たデザイン.jpg

さて、私が個人的に気になっていたのがホールの入り口にあったこちらのランプ。
この組み具合といい、四角を多様したデザインといい…

「どうもフランク・ロイド・ライトの建築デザインを思い起こさせるのですが…」

するとガイドさんから、ちょうどその謎のヒントになる説明がうかがえることに…

「こちらの建物を設計した武田五一は、ここ明治村にもある建築物
 「帝国ホテル」の建築したことで有名な「フランク・ロイド・ライト」とも
 親交があったと言われており、例えば、こちらの入口のランプや家具などデザインには
 ライトの影響を受けたのではないかと考えられるデザインが要所、要所に見受けられます」
とのこと。

ああ、やっぱり気のせいじゃなかったんだと妙に嬉しくなりましたよ。
ほら、このランプシェードだって…

ランプシェード.jpg

なんとなく帝国ホテルの中にあった椅子のデザインのテイストが
ほんのり入っている気がしますもの。

そして、最後は玄関口にある、このステンドグラス。

昼間と夜では印象が違うのを外窓を開け閉めしてくださり
説明してくださったガイドさん。

昼間はキラキラと…色とりどりのガラス越しに差し込む光を楽しみ
ステンドグラス1.jpg

夜はガラスのそれぞれをつなぐ線が鈍く光り、昼間とは違った立体感が…
ステンドグラス2.jpg

はい。とてもよく分かりました(^^)

丁寧に説明をしてくださったガイドさんに
「ありがとうございました」とお礼を言って、芝川邸を後にしました。
にしても…

「本当に…ここから離れるのが惜しいです」

ステキな建物だったので。
というか、日本人でアールヌーヴォーを取り入れながら設計した建築家がいたなんて…

「すごいなぁ」

今日は長くなりました。すみません。
続きはまたのちほど…


----------------蛇足----------------


「武田五一」さん。気になったのですよ。

いやねぇ…「なんか武田五一って聞いたことがあるんだけどなぁ」と。

帰宅後、ネットで検索していたら…

以前に金華山のロープウェイに登った後の帰りに…
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-10-27
見かけた「名和昆虫博物館」の建物
http://www.nawakon.jp/menu6/index1.html
こちらの建物も、なんと武田五一氏が設計したものでしたよ。

「そうか!先日、岐阜公園のこと調べてた時に見つけたんだったわ」
それで聞いたことある訳だよ。
自分が気になってた洋館建築だったんだもの(苦笑)

「バカだなぁ、私」

こりゃ、早々に名和昆虫博物館に行かなくてはね。
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コメント 4

whitered

昨年の春のゴールデンウィークには、こちらの芝川邸はまだ移築されていなかったですね。和洋折衷の建築がとても面白いです。古きよき時代の財界人の暮らし方がしのばれる建物ですね。それにしても、建築がお好きで詳しいですね。神戸の異人館などは、もう行かれたのでしょうね。京都と大阪の間にある大山崎山荘も、とてもいいですよ。イギリス風の建物ですが。ここは、美術館としても有名でモネの睡蓮の絵なども収蔵しています。
by whitered (2008-12-05 17:54) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメントありがとうございます。
そうですね。ガイドブックによると明治村への登録が今年になってました。
しかし…この建築は本当に見ていて飽きないというか…
やはり和洋折衷だからでしょうか?アールヌーヴォーの影響を
こんな所で知ることができるとは…とても意外でしたし
嬉しい発見でもありました。

建築が好きになったのは、洋館建築が好きだったこともありますが、
プロダクトデザインから派生してライトやコルビュジエなどの
世界の建築家を知り、その世界の建築家の教え子である
近代建築の巨匠(丹下健三さんなど)を知り
私達の住まいの身近にその建物があることがある意味で新しい発見で…
それから読みやすい建築雑誌などを読んでは「ほほぅ」と
うなずいております(^^;)

この日はちょうどガイドさんに詳しく説明していただけたので
その説明で気になったところを帰宅後、ガイドブックや
ネットなどで調べてこの記事を書き上げました。
工法や細かい時代背景などは全く得意分野ではないので(苦笑)
でも、調べることでまた新しい建物に出会った時に参考になるので
最近はこういう作業がとても楽しいです。

神戸の異人館は、高校の修学旅行で訪れました。
友達とも一緒に写真を撮ったりしていましたけど
それと同時に建物の写真撮影してましたね。
あまり今の自分と変わらなかったのかも(笑)
この年になってもう一度、じっくり歩いてみたいなとは
いつも思っています。
なかなか兵庫県の方は機会がないと出向くことがないので…

大山崎山荘…
毎回、市街の方に出てしまい(苦笑)いつも機会を逃しております。
イギリス風の建築…いいですね。
洋館建築もそしてモネのような有名な美術作品も鑑賞できるなんて…
本当、素敵な空間ですよね。
来年、また時期をみてぜひ出掛けてみたいなあと思ってます。
by ユキヲ (2008-12-05 20:54) 

菜の花

武田五一さん他、ブログを拝読することで、新しく興味が増えました。
この方が手がけた作品、どこかの土地に出かけるときは、
ついでに見学できたらいいな、と感じたブログでした。
毎回の力作ブログ、ありがとうございます。
by 菜の花 (2008-12-07 18:39) 

ユキヲ

>菜の花さんへ
コメントありがとうございます。
菜の花さんみたいに新しく興味を持っていただけると…
私も嬉しいです(^^)
もし、他県にお出かけされる時には
Wikipediaのこのページに建物が結構掲載されてるので
ご参考にされるのも良いかも。
http://ja.wikipedia.org/wiki/武田五一
やはり関西方面に建物が多いですね(^^)
お出かけする楽しみが増えそうです。
by ユキヲ (2008-12-08 10:02) 

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