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「ブルーノ・ムナーリ展」 [芸術etcのはなし]

私がこの展覧会に目をつけたのはたぶん、今年のはじめ頃。
「新日曜美術館」の「アートシーン」で
この展覧会の最初の会場であった「板橋区立美術館」での
開催告知を見た時でした。

たしか、アイロンがけをしながら見ていたのですが…
作品の一部が映像で流れた時、思わず手を止めました。

「この人…すごい…」

グラフィックデザインから絵画、彫刻、プロダクトデザイン
そして果ては子供のための美術教育にまで取り組んでいた
ブルーノ・ムナーリ氏。
紹介されていた仕掛け絵本の無駄のない仕掛けと色使い
そしてその他の作品にあふれるユーモアを盛り込んだ
造形に思わず釘付けになってしまったのです。

「とはいえ…やはり関東や主要都市だけで…名古屋には来ないんじゃない?」
なんて思っていたら…最後に巡回予定のテロップが出現。
最後に愛知県刈谷市に2008年9月に巡回するとのことだったので

「おぉっ。さすが刈谷市美術館!」

なんて小さく喜びながら、黄色い付箋にササッとメモして、
普段から持ち歩いている手帳の
カレンダーにそっと貼っておきました。

刈谷市美術館は以前に「ディック・ブルーナ展」も巡回して
私の中では一目置いている美術館です。
(とはいえ、この当時は、まさか愛知県に巡回すると思わず
 大阪まで出かけて観た大バカ者がここにいますけどね…笑)

あれから数ヶ月後…
「まだまだ先…」なんて思っていたら…いつしか10月。
仕事をやりくりして…また平日にお休みを1日いただいて、出かけてまいりました。

「ブルーノ・ムナーリ展 あの手この手」
http://www.city.kariya.lg.jp/museum/munari.html

10月7日(火)
JR・名鉄刈谷駅より駅前の
建設中の大きな商業施設の建物を眺めながら徒歩10分ほど…
到着したのは、刈谷市美術館。

看板や正面玄関からすでにムナーリの世界です。

ムナーリ展告知看板.jpg
ムナーリ展入口.jpg


さて、館内に入って最初に観たのは
ムナーリがイタリアの前衛美術運動の一つ「未来派」の活動に参加していた
頃に発表した作品、そしてその後、
グラフィックデザイナー、アートディレクターとして活躍した頃の作品。
その中で目をみはるのがその色使い。
濃い色を使っているのに、嫌味にならない
むしろ洗練された印象を与える様々な雑誌の誌面。
限られた色数でありながらも、そう感じさせないところが

「素敵だなぁ」

とはいえ、その中で釘付けになったのは…
(さて、今回のレポートも長いので、お時間ございましたらお付き合いくださいませ)
「ナンセンスの機械」というタイトルのイラスト。

ナンセンスな機械.jpg

例えば…「ゆで卵を作るときの自動時間計測器」とか。
普通にゆで卵ゆでた方が絶対早いのに…
何だか、いろいろな手順を踏んで
なんとか鍋の中で卵がゆで卵になっているというもの。

「あれ?そういえば…こんなの前から知っているような気がするけど…」

あなた、一番大好きな「アレ」を忘れかけてはいませんか…

「あぁ…♪ピタゴラスイッチ♪」

ですよねぇ…。
まあ、ピタゴラスイッチはナンセンスではないですが
(あれを撮るために3日間を費やす時もあるというのですから…ある意味すごい)
でも、ほらリアルで言うとあれですよ。
以前にラーメンズの片桐さんが出演していたマスターカードのCMみたいな感じ。
http://jp.youtube.com/watch?v=eqq6r_3zNsc

思わず「ふふふ」と笑えるイラスト。
いいですよね。こういう「良い意味で力の抜けた感じ」がね。

さて続いては代表作の絵本の展示。
「どうぶつはいかが?」

動物はいかが.jpg

ページの大きさが違うことを利用して制作されたこの本は
次から次へと予想外な動物が出現。
大人でも楽しめるのですから、子供ももちろん、楽しいでしょうね。

続いては
デザイン面からすると、この「色彩のヴァリエーション」などは
私のツボでしたね。

色彩のバリエーション.jpg

同じ形なのに、色合いによって、それぞれの印象が変化する。

「ああ。学生時代にもこんな平面構成やったなぁ」なんて懐かしい思いと
「ああ、やはりどれも無駄のない、洗練された色のコーディネートだな」
という尊敬にも似た思いが心の中で交錯しました。

そして、今回のムナーリ作品の中で一番「面白い」と思ったのがこちら。
「ムナーリのフォーク」というもの。

ムナーリのフォーク.jpg

ムナーリ氏は、デザインの観点から
視覚的なコミュニケーションを繰り返しそれを
「読めない本」など、様々な作品として発表しています。
その中のひとつがこの「ムナーリのフォーク」というもの。

フォークの先を軽く曲げただけなのに
そこにはまるで人間のジェスチャーのような
意味がにじみ出てくる…
この愉快なフォーク達を例にして
ムナーリ氏が教えてくれるのは、意思伝達の仕組みと不思議。
思わず笑顔になってしまう楽しい紙面上の講義ですね。

これを制作した当時、ミラノに住んでいた
建築家の岩淵活輝氏から教えを受けて、
この本の扉には「あの手この手」という日本語を使ったのだとか。
デザイン的な視点からすれば、
これ以上の説得力あるキャッチコピーはないでしょう(笑)

そして後半はグラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー
作家、編集企画者、そしてワークショップのパイオニアと
様々な方面で活躍したムナーリの代表作が並びます。

カエル好きとしては…絵本「カエルのロミルダ」がお気に入り。

カエルのロミルダ.jpg

石にこしかけて、ひと休みするこの表情…最高です。
残念なのは…自分がイタリア語を理解できたら
もっと楽しめたのにというところでしょうか(苦笑)

あと、ムナーリ氏がデザインした灰皿。

灰皿.jpg

タバコの吸い殻が中に落ちて、表立って吸い殻が目に入らない
仕組みになっているこの灰皿。
無駄のない、それでいて機能的な素敵ですよね。
でも驚くことにムナーリ氏はタバコは吸わないとのこと。
だからこそ「吸い殻が目に入らない工夫」ができたのかもしれませんね。

とはいえ、この日、一番驚いたというか…鳥肌が立った出来事。
それは…

ムナーリ氏と柳宗理氏との間に接点があったということ。

「柳宗理」

数年前にこの人の存在を知って以来、大好きなプロダクトデザイナーです。

あらためて展示品の脇にある解説文で驚いたのですが
1957年に日本が初めて公式参加した
第11回ミラノ・トリエンナーレにて、ジオ・ポンティ氏
(イタリアの陶磁器メーカー「リチャード・ジノリ」でアートディレクターとして活躍)
を介して柳氏は、ムナーリ氏と会ったようです。
そして、1960年
東京で世界デザイン会議があった際の実行委員だった柳氏は
その際にムナーリ氏を招聘したとのこと。

あ…ミラノ・トリエンナーレと言えば…
たしか、その際に作品を出品した柳氏は
「バタフライ・スツール」と「白磁土瓶」で金賞を受賞したんでしたよね。

そして。1980年には
イタリア在住のデザイナーでさえも推薦などがなければ困難と言われている
「ミラノ市近代美術館」でデザイナー初の個展を開催したのは
何をかくそう、日本人の柳宗理氏。

そう、ここまでは私も雑誌等で知ってはいたのですが…
まさか、その際に発行された図録にムナーリ氏が文章を
寄せているとはつゆ知らず(驚)

柳宗理図録内.jpg

その図録の実物を見て「おぉ〜っ」と驚くばかり。

さらに驚いたのは、私の大好きなグラフィックデザイナー「福田繁雄」氏が
(余分なものをそぎ落とした形とひねりのあるトリックアートを得意とする人です)
ムナーリ氏の影響を受けていたということ。

「ムナーリのフォークを見た時にデジャヴにも似た感覚があったのは…」

たぶん、福田氏もムナーリ氏のそういうテイストに影響されていたからでしょうね。
私が中学生の頃に見た福田氏のポスターはそれはそれは単純明快な
それでいて訴える力が強い、印象的なポスターでしたもの。

福田氏は、ムナーリ氏が日本で展覧会を行った際には
ポスターや図録のデザインを担当されたとのこと。
「大変だったでしょうけど…きっと嬉しかったんでしょうね」と
思わず、展示品を見て微笑んでしまいました。

そして最後は、「ワークショップのパイオニア」のムナーリ氏の展覧会らしく
子供向けに作られたワークショップルームが用意されていました。
で、平日に人がいないことを良いことに…
ムナーリ氏作の知育玩具で遊ぶ30代女性がひとり…(苦笑)

2種類の知育玩具があったのですが…
知育玩具0.jpg

これはCorraini(コッライーニ)
「+ e -(「つけたり・とったり)」という玩具。
知育玩具1.jpg
72枚のカードの中の48枚は透明なプラスチックシートに
木や空や鳥などの絵が印刷されていて
その他はボール紙やトレーシングペーパーなどのカードも入っており
いろいろな組み合わせを試みることで様々な「自分だけの物語」を
作ることができるというもの。

これは子供達の創造力を育むには良いものですよね。
で、それを熱心に組み合わせる30代女性(苦笑)

私は青色が好きなので…こんな具合に…

知育玩具2.jpg
空と海

知育玩具3.jpg
コウモリの散歩

知育玩具4.jpg
イージュー☆ライダー
(はい、元ネタの分かる人は笑ってください…笑)

知育玩具5.jpg
雨降りポストマン

という具合でしょうか(笑)

いやはや、非常に楽しめた展覧会でありました。
新鮮な気持ちで作品を鑑賞できたのも、やはり、絵本から知育玩具まで
子供のために制作された造形物が多かったこともありますね。
ある意味、童心にかえったのかもしれません(笑)

そして偶然にも、私の好きなアーティストと
ムナーリ氏との接点があったという発見が
何よりこの日の驚きであり、収穫でありました。

「いや、偶然というより必然?」

かもしれませんね。
とにもかくにも、すばらしい作品を鑑賞できた
素敵なひとときでありました。

この展覧会は10月26日(日)まで愛知県刈谷市美術館で開催されています。
http://www.city.kariya.lg.jp/museum/munari.html
お近くの方はぜひお出掛けされてはいかがでしょうか?
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tanuki

おお~☆
やはり、ユキヲさんも、この展覧会にお出かけになったのですね!
実は、夏に、滋賀県立近代美術館にも巡回していたのですよ♪
それで、私もしっかり見に行きました。(^^)v
その時にレポ書かなくてスミマセン。。。
でも、ユキヲさんが詳しく解説してくださったので嬉しいです(笑)
ムナーリさんの作品群を見ていると、まさに「グラフィックとは、こういうことをいうんだよ~♪」と楽しく説明を受けているような気分になれますよね。

そうそう、ワークショップ、もちろん私も遊んできました(笑)
プラスチックシートのカード、楽しかったです。
さすがユキヲさん、素敵なセンスで組み合わせられましたね。
別にご自身の年齢を気にされないでいいと思いますよ(笑)
子供でもこういうことに興味のない子がいるでしょうし、むしろ大人のほうが応用力があるから楽しめる気がするし・・・(^^ゞ

右脳がかき回されるような刺激を受けて満足の展覧会でした(笑)

by tanuki (2008-10-17 08:02) 

ユキヲ

>tanukiさんへ
nice&コメントありがとうございます。
はいっ。出かけてまいりました!
そうでしたか!tanukiさんもお出掛けされたんですね。
最近、新日曜美術館のアートシーンはどんなに眠くても忙しくても
要チェックしています。
あの番組の良いところは、巡回予定もちゃんと告知してくれるところ(笑)
おかげさまでこの展覧会も無事に出掛けることができました(^^)
ムナーリさんの作品の良い所はやはり、デザインのルールを上手く使って
効果的に訴えかけるということでしょうか。
絵本などはまさにその良い例で、色使いもそうですが、
装丁など、工夫満載で本当に良い刺激となりました。

ワークショップ…あれは本当に良い空間だったと思います。
展示を通して見たところであの実践できる空間。
理想的だと思いました。
今回、私が遊んだ知育玩具はネットショップで8000円ほどで
販売されていると知り、かなり物欲がグラグラ沸いています(爆笑)

tanukiさんのおっしゃる通り…右脳にビリビリと来た展覧会でした。
今年、私が見た展覧会のベスト3に入りそうです(^^)


by ユキヲ (2008-10-17 22:00) 

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