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「伊丹十三〜カメレオン男のトリック〜」 [映画のはなし]

もう少し早く書きたかったんですが…仕事に追われて
結局リアルタイムで放送されている日にアップできませんでした(爆)
ええ。毎度おなじみNHKの「知るを楽しむ」内の
「私のこだわり人物伝」でなんと伊丹十三さんが放送されました。
伊丹十三.jpg
知るを楽しむ「伊丹十三〜カメレオン男のトリック〜
http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200809/tuesday.html
※最後の回の再放送がまた来週放送されるようです。

いやぁ…毎回、毎回、本当に内容の濃い25分でしたよ。
○エッセイストの伊丹十三
○趣味に真剣にのめり込む伊丹十三
○テレビで斬新な表現を披露した伊丹十三
○そして日本映画に切り込んでいった伊丹十三

まあ、私なんかだと、俳優としての伊丹十三監督をかろうじて
「家族ゲーム」で知っているぐらいで…
どちらかというと「映画監督」としてのイメージが強いんですよね。
無理もないです、物心ついたら、伊丹十三さんは「お葬式」や「マルサの女」など
次々に話題作を封切り、老若男女に浸透していったのですから。

でも、今回この番組と番組の内容にさらに情報を加えて編集したテキストを
拝見しましたけど…いや、あの数々の賞に輝いた映画ができるまでに
伊丹さんは、いろいろなことをやって、それが全部活きているんだなと
あらためて感じましたね。

いやもうこの番組を見て驚いたのは、私の中での印象的なシーンのからくり。
それは、私が好きな映画「タンポポ」で、ホームレスのおじさんが、
タンポポの息子と一緒にレストランの厨房に忍び込み
オムライスを作るというシーン。

手際よくオムレツを作るアップの部分があるのですが…
私は今の今までてっきり「コックさんが吹き替えしている」と思ったら…
なんとそれは伊丹十三監督本人がされていたとのこと。

「驚きましたよ。これは」

料理へのこだわりが高じて、オムレツも手際よく仕上げるようになったんだとか。
それまでの工程を写真家の浅井愼平さんが「凝り性の常習犯」ということで語っています。

「伊丹さんは料理も上手です。食通だし、凝り性だから、プロ並みになるまで
 いろいろと作ってみます。が、その姿は自由気ままではなく、どこか努力家の職人のようでした。
 伊丹さんは一時期オムレツ作りに凝ったことがあって、あるとき『傑作を食べさせてあげる』
 と言ってうちにやってきたことがありました。そこで卵とフライパンの場所を教えて
 キッチンを明け渡したのですが、しばらくして覗いてみたら、テーブルの上に失敗作と 
 おぼしきオムレツがずらりと並んでいます。2ダースもあった卵はほとんど使い切られていて、
 なおも作りつづけているのです。伊丹さんは明らかに機嫌が悪くなっていて、挙げ句のの果てに
 『シンペイさん、これフライパンが悪いね。オムレツ専用のフライパンを買わなくちゃ』
と言い出す始末でした」

バイオリンやギターの趣味もあった伊丹さんのことを、浅井さんは
「『ねばならぬ』を実現することに必死だったよう気がする」と語ります。

それはどれにも当てはまるかもしれませんね。
初監督の映画「お葬式」が封切られ、あれよあれよという間に賞も獲得。
そうすれば次回作も期待される。
「もっと面白いものを撮らなくては…」
きっと伊丹さんだからこそ、人の何十倍もの信念を持って
普通の人が描く頂上のそのまた上を目指されてしまったのではないかと。

そういえば…
以前、衛星放送で伊丹十三監督特集を放送されていた時に
伊丹十三記念館にゲストの人を呼び、
映画のエピソードを語っていたことがありました。
たしか、津川雅彦さんが映画「スーパーの女」の放送にちなみ
コメントしていたと記憶しているのですが…
劇中、津川さんが空き缶を蹴るシーンがあったそうですが…その空き缶。
転がる位置から、タイミング、そして蹴る方向まで
伊丹さんより事細かく指示されたのだそう。
それを語る津川さんが当時のことを想い出したのか
「やれやれ」という雰囲気を醸し出していたように思えたのは私だけでしょうか?

そう。伊丹さんの中ではもう完璧な映像ができていたんでしょうね。
伊丹さんの「ねばならぬ」の精神はここでも垣間見ることができそうです。
とはいえ、それはとても辛いことだったと思われます。

伊丹さんは1968年刊行の「女たちよ!」で
自分自身のことを「空っぽの容れ物に過ぎない」と語っています。

それをふまえて、浅井さんはこうも語っています
「人間は誰しも空っぽの器かもしれません。
 しかし、そこに入れるものは、過不足なくぴったり収まるものだけでなくていいのです。
 器からあふれるようなものであってもいいし、器に盛りきれないものであってもいい。
 しかし、伊丹さんは器から中身がこぼれるような状態が嫌だったのではないでしょうか。
 本当は器からこぼれていくようなものを、永久に手に入らないものを、執拗に
 求めていってもよかったのです。そういうクリエイティビティも面白かったのでは
 ないでしょうか』

映画監督の側面しか知らない私には
先に書いた、津川さんのお話をテレビのモニタで初めて見た時には
「ほぅ。厳しい監督さんだったんだ」と何気なく思っていたのですが…
今回の4回分の放送を見て思ったことは
「ああ、この人は自らに辛い部分を常に突きつけていた人なのだ」
と思いましたね。

洋服、生活スタイル、育児、などなど…
伊丹さんは筋金入りの「ねばならぬ」の人だったんですね。
購入したテキストを読めば読むほどそう思いました。

でも、やはり、世の中には「ねばならぬ」では解決しないこともある訳で…
だから結果的に自ら、器を空にしてしまったのではないかなと私は感じました。

エッセイや、こうした味のあるイラストも描いて…
伊丹十三イラスト.jpg
俳優としても、映画監督としてもそれなりの結果を残して
ぱっと見るととても器用そうに見える人だったのですが…

「どうやらそうではないみたいですね」

でも、ますます伊丹さんのことが好きになりました。
器用そうだけど、不器用。だからこそこれだけのことができたんじゃないかと。

ここ数年、さらにドキュメンタリー好きに拍車がかかっている私ですが
今回の番組は、もともと好きな映画監督さんであったので
非常に強く心に残りました。そして…

「いつか伊丹十三記念館へ…」

行ってみたいと思った今日この頃です。


※今回の番組のテキストもそれぞれ、ゆかりのある人々のインタビューが掲載され
 とても読み応えがありますが、こちらのHPも、伊丹さんのことが詳しく紹介されています。

伊丹十三記念館
http://www.itami-kinenkan.jp/


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菜の花

伊丹十三さんの番組。
毎回の25分番組を楽しみ、今回のユキヲさんのブログ記事を
読んで楽しみました。
>衛星放送の伊丹十三映画特集。
どんな視点だったか、私も観てみたかったです。
>伊丹さんは筋金入りの「ねばならぬ」の人だったんですね。
桂枝雀師匠といい・・・、「才能がある人ゆえの苦悩」かな、と思います。
図書館の映画の本棚に、伊丹映画について語ったものも見かけました。
ポツポツと伊丹映画をDVDで借りてみたくなりました。

伊丹十三記念館。私もいつか行ってみたいものです。

by 菜の花 (2008-10-02 22:08) 

ユキヲ

>菜の花さんへ
コメントありがとうございます。
いやぁ。久しぶりに見応えのある25分でした。
衛星放送の伊丹十三特集。
衛星映画劇場という枠で
司会進行役に山本晋也監督、渡辺俊雄さんが出演されて
加えて、宮本信子さんが出演されていて
その日に取り上げた映画の放送後に
当時のエピソードなどを織り交ぜながらトークをされていました。
Gコードというのは便利ですが…時に残酷なもので…
このトークの部分は別のコーナーという認識をするようで
リアルタイムで見た後に再び録画しているものを見たらプッツリ
切れておりました(爆)
なので、こんな具合に記事をアップしてから言うのも何ですが…
少々記憶力が不安です(滝汗)

今回の番組を観て伊丹さんのような方はやはり
「身を削ってとんでもないものを作り出すタイプ」
なのではないかなと思いました。
とてつもないものを作るには普通ではいられない。
だから、身を削り、イバラの道をあえて選んで苦境に立つ。
そんな雰囲気を感じとりました。

そういえば、近所の図書館にもちゃんと「映画」という書籍の分類が
あったことを想い出しました。
私もまた落ちついたら探してみようと思いました。
とはいえ、今、一番気になるのは「女たちよ!」と
「ヨーロッパ退屈日記」ですね(笑)
そろそろ涼しくなってきたので読書にも励んでみたい今日このごろです。

建築家の丹下健三さんがマスタープランを担当された
「平和記念公園」日本に生まれ、生きる1人の人間として
そして、丹下先生が何を思ってこれを作られたのかを思いめぐらせながら
いつかこの足で一歩、一歩、歩いてみたいと思ってはいるので
(残念ながら私が高校の頃は広島まで修学旅行で訪れることができず)
近い将来、中国地方を旅する時には巨匠の足跡をたどる旅として
「伊丹十三記念館」もめぐってみるのが私の中での小さい夢ですね。
そうそう、アンパンマンの作者である「やなせたかし」さんも
高知出身のお方で美術館を開館されてますから…
そちらもぜひ出かけてみたいところです。





by ユキヲ (2008-10-03 23:45) 

Gintonic

はじめまして。
伊丹十三のことが書かれているので、ちょっと寄り道…。
私もこの番組は楽しみに観ていました。TVで岸田秀はコメント寄せられていましたっけ?
私が伊丹十三に興味をもったのは岸田秀との対談の本『哺乳期の中の大人』を読んでからです。
そのあと『問いつめられたババとママの本』で彼のレトリックの巧みさに感服してしまいました。30年ほど前のことです。一連のエッセイから『あっ、この人、将来自殺する人!!』との予感、その予感が当たってしまった時はやりきれない思いでした。『岸田秀に、世界観を与えてもらった』はずの十三ですが、世界観を手に入れただけでは 、自殺を思いとどめる力にはならなかったようです。『女たちよ、男たちよ、子供たちよ』『自分たちよ』など、岸田秀と盟友になってからの本が特に好きです。
by Gintonic (2008-12-19 03:42) 

ユキヲ

>Gintonicさんへ
コメントありがとうございます。
「知るを楽しむ」は、毎回通好みのものをチョイスするなぁと
度々「やられた」と思いつつ(苦笑)楽しく視聴している番組のうちの
ひとつですが…この伊丹十三の回ほど放送が楽しみだった回はありません。
岸田秀さんの存在は伊丹さんの中で大きかったけれど…
それがうまく将来へ活かすことができなかったのは
非常に残念でなりません。
ただ、こうして活字や映画作品が残ったことで、
絶妙なレトリックだったり、彼独特の視点から迫った映像が今でも
目にできることには「良かったなぁ」のひと言に尽きますね。
うむ…また久しぶりに彼の映画を見たくなってきました(笑)


by ユキヲ (2008-12-20 02:27) 

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