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「小袖 江戸のオートクチュール展に出かける(後編)」 [展覧会のはなし]

「小袖 江戸のオートクチュール展」にお出かけしたお話
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2008-06-07
長くなってしまったので、後編として続きをお送りいたします。

さて…ここでちょっと今回出かけた「名古屋市博物館」のことも少し。
名古屋市博物館の企画展示スペースは
ちょっと変わった空間構成になってまして…
前半の展示スペースと後半の展示スペースの間に広めの通路がありまして
その通路がだいたい物販スペースになります。

この日も展覧会オリジナルのグッズや関連書籍などが
所せましと並んでおり、展示作品の半分しか鑑賞してないのに
すっかりお買物モードに(苦笑)
欲しいものを手に入れて、上機嫌になったところで
(これについてはまた後ほど…)
今度は、後半の展示品を鑑賞。

「装いをめぐるとき 時間・季節・機会」というテーマの
スペースで、最初に目に飛び込んできたのは…
「藍染めの帷子(かたびら)」
夏の衣服の素材として好まれた麻を使った単衣が帷子です。
にしても…
「まあ、どうしたらこんな細やかな模様が…」と思うほどの
素晴らしい染模様。
さらに木綿地の浴衣にはな、なんと
「藍一色で日本三景が!」
これには本当に驚きました。
厳島、天橋立、松島が糊の防染の技法で繊細かつ大胆に表現されていたんです。
この浴衣が作られたのは江戸時代後期。
江戸時代中期頃、庶民の間では社寺参詣(お伊勢参りは有名ですよね)
物見遊山の旅が盛んになったので、
各地の情報が活発に交換されたことで評判となった
名称がこのように模様に表現されたのではないかと
図録でも紹介されておりました。

そして婚礼衣裳が展示されているところに移動すると…
「何だか、江戸時代という年代を感じさせない模様ですねぇ」
鶴と亀、そして松竹梅…現代のお祝いには欠かせない吉祥模様ばかり。

さらに、子供用の振袖は大人の小袖顔負けの素晴らしい技法を
駆使した素晴らしい作品が展示されていました。
興味深かったのは
「放れ馬模様振袖」の背中にあった「赤糸の縫取り」
「しつけ糸の…取り忘れ?」と疑問に思うユキヲ。
しかし説明文を読んで納得。

この背中にある「赤糸の縫取り」は「背守り」というもので
子供の場合、身体に合わせて身幅が一幅の布で作られているため
背縫いがなく、そこから魔物が入るという迷信(?)があったそうで
それを防ぐため、赤い糸で縫い飾ったんだそうです。

続いては着装用の小袖を寝具として、身体にかけて用いたことから
発展した「夜着」も鑑賞したのですが…
(表布と裏布の間に綿がたっぷりと入っています)
「婚礼衣装?」と思ってしまうほど、
その様々な吉祥模様には驚きました。
どうも、眠りについた無防備な人間を守るという考えが
派生したようで…鳳凰や獅子、松竹梅鶴亀など
吉祥模様をふんだんに盛り込むようになっていたようです。

さて、次に向かうと…小袖のまざなしというテーマで
「雛形(ひながた)本」とそれを元に作られた小袖が
多数展示されていました。

雛形本とは、現代で言うところの「ファッションブック」
のようなもので、当時は「小袖雛形本」や「衣裳雛形本」などと呼ばれ
木版刷りの冊子だったそうで
一般には1頁に1点の小袖の背面の型に模様を描いて
余白に模様の題名や地色、加工法などを記したのだそうです。

前編にも書きましたが「小袖」というのものは
注文主の意向を受けて作られます。
そこで登場するのが「雛形本」。
江戸時代の女性達は、新しい小袖を作る時には
最新流行の模様が描かれている「雛形本」を参考にしたという訳です。
そう、あくまで「参考にする」だけなので…
実際、注文する際には、自分の好みなどを盛り込み、注文するのです。
それは展示されていた作品と雛形本より抜粋された
図案とを見比べてよく分かりました。

雛形本には手箱の輪郭しかない図案だったのが
実際の小袖には手箱の蓋に草花の模様があしらわれているので
「ああ、この小袖の注文主は草花が好きだったのかも」と想像してみたり
さらには雛形本には様々な情景を描いた図案だったのが
実際の小袖には、随分と図案がそぎ落とされた仕上がりになっているので
「この小袖の注文主はシンプルな図案が好きだったのかも」
などと想像しながら見るのもまた楽しかったです。

その中で、私が印象的だったのは…
「雪持ち南天に鶏模様小袖」
元になった雛形とされるのが
1760年(宝暦十年)に京都の雛形本の版元「菊屋七郎兵衛」が
刊行した「雛形都の富士」所収五十六番の模様。
雛形には「南天 地花色 葉はとくさひき 花はあかさし」
という指示があるのですが
実際に仕上がった小袖は紫地に金糸と色糸による
細かい刺繍がほどこされており、
さらに、南天の模様の葉の一部には友禅染めと型鹿子が
ほどこされているというなんとも豪華な仕上がり。
何より、上へ、上へと勢いよくのびる南天の木の根元には
雛形には全く描かれていない鶏
(雄鳥・雌鳥のつがいと、なんとヒヨコまでいる)
までもが刺繍であしらわれているのです。

この鶏がまた思わず時を忘れて見入ってしまうほどの
繊細な刺繍で見事に表現されており
特に雄鳥のノドの部分や羽根の色とツヤには
「伊藤若冲の作品」を彷彿させるほどの活き活きとした表現でした。
※伊藤若冲については以前にも少しお話しましたね(^^)
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2007-06-07-2

「注文主はさぞかし模様を考え抜かれたんでしょうねぇ…」
南天は昔から「難を転じる」に通じることから
古来より縁起の良い木とされており、吉祥のモチーフとされてますし…
つがいの鶏に雛まで模様に入れたところを見ると
「子孫繁栄か家族円満か…」
うむ。想像がふくらみますね。
さらには様々な技法をあしらった「小袖裂」も展示されておりました。

さて、別のスペースには大正時代に活躍した西洋画家
「岡田三郎助」の作品と共にその作品に描かれた小袖が
展示されておりました。
岡田三郎助は私も知らなかったのですが…
日本の伝統的な装飾美とラファエル・コランに学んだ
西洋画の技法を融合され、独自の画風を確立した画家で
パリから帰国してから収集したという数多くの小袖が
現在も松坂屋京都染織参考館に収蔵されているのだそう。

それにしても、こうして画家というフィルターを通して
西洋の絵の具で描かれた小袖というのも趣があって素敵ですね。
私はどうしてもデザインを中心に勉強していたせいか
なかなかこうした近代の西洋画の日本画家の作品に
触れる機会がなかったので…
(なにぶん私の中の近代の西洋画といえば中・高生の日本史で習った
 黒田清輝や岸田劉生止まりですから…汗)
今回はとても良い機会に恵まれました。

最後は「コレクション探訪」ということで
具足、胴服から、能面、屏風
そして豪華な刺繍をあしらった袱紗などが展示されていました。

こちらのコレクションについては、前半のスペースにも
蒔絵をほどこした組香に必要な道具類一式や
銅や銀で細やかな細工をほどこしたかんざし、
そして業平菱の地紋を金蒔絵で表した婚礼調度品など
様々な名品の数々が展示されていました。

私は以前に「美の壺」で放送された「更紗」を視聴し
すっかり「更紗」に興味津々だったのですが…
なんと、この会場にも「更紗」を使って仕立て上げられた小袖があり
「なんというタイミング」と驚くやらうれしいやら(笑)
「立木模様更紗下着」がまた興味深くて…
こちらに使われている生地は
十七世紀から十八世紀の初期にかけてインドで作られた木綿布を
用布とした小袖で、もとは周りに縁取りのある方形の布で
大きな立木模様の更紗であったようなのですが…
もともとはヨーロッパ向けの製品だったようです。
(それも、ベッドカバーなどに利用されていたのだそう…笑)
で、この縁の柄を上手く活かして、小袖の袖や裾の模様として
利用しているところがね…
「さすが、日本人」と叫びたくなるほどの
アイデアが光る柄合わせなのです。
渡来裂だけあって、これを用いたのは廻船問屋の主が着ていたと
伝えられているそうです。

会場の出口付近では年代別に制作された小袖のレプリカを
試着して撮影できるスペースもありました。
たくさんの方が並んでいたので私はスルーしましたが
この後、和裁のお稽古に出かけた際に
着付のO先生より
「あれね、レプリカだけあって中はきっとウレタンだと思うの…だって軽いもの。
 でも、当時はもちろん真綿だった訳でしょ…重いと思うわよ」
と、試着のご感想をうかがうことができました(^^)

久しぶりにじっくりと作品鑑賞。
とても充実したひとときでございました。

先週の「新日曜美術館」の「アートシーン」でも紹介されていましたが
この展覧会は、名古屋では明日の6月8日(日)まで開催され
その後、7月26日(土)から9月21日(日)までは
東京・六本木のサントリー美術館、
来年の4月14日(火)から5月31日(日)までは
大阪市立美術館で展示されるそう。

ただ、他の会場での展示はどうなるのか分からないのですが
名古屋博物館の場合は、前期と後期でかなり作品の入れ替えがありましたので
(その入れ替えの割合、なんと8割!それが分かった話も後ほど書こうと思います)
今後開催の展覧会ではチラシ等をチェックされてお出掛けされた方が
よろしいかと思います。

とにもかくにも、着物好きの方にはぜひご覧いただきたい展覧会でありました。
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whitered

更紗わたしも大好きです。歴史が古いので、いろいろとあるようですね。彦根更紗とか堺更紗というのまで。戦国~江戸に入ってきて、器用な日本人が取り入れたのでしょうか。以前、万博公園の民族学博物館で「更紗展」というのがあり、更紗の細帯を買いました。大阪には、来年来るのですか~。大阪市立美術館は近いから、是非行きたいです。便箋と小物入れ?赤っぽいのも可愛いですね。
by whitered (2008-06-07 21:15) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメントありがとうございます。
「更紗」…以前から名前とその生地の特徴については
ざっくりとは知っていたのですが…
先日の「美の壺」できちんと順序立てて知ることができたので
本当にありがたかったです。
そうでしたか…民族学博物館で素敵な展覧会があったのですね。
(一度、太陽の塔の実物を見たいので、
 万博公園は一度出かけてみたい場所のひとつです)
私も出かけたかったなぁ(^^;)

一筆箋はお友達などにちょっとお手紙を書きたい時に
重宝しています。
何だか最近はこれをよく買うので家には色とりどりの一筆箋が
増えてきております(笑)
もうひとつはミニファイルなんですけど…
記念切手などをよく買うので、
(あくまで友人へ手紙出すために買い求めます)
一時的に保管しておいたり…
そうそう、付き合い柄、よく知人から個展やグループ展などの
案内DMをいただくので、それらをファイリングするのには
ちょうど良いかもと思ってお買い上げしました。(^^)
更紗の模様もあってか、ここ最近では一番のお気に入りです。
by ユキヲ (2008-06-08 00:44) 

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