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「活版印刷への道…228km(後編)」 [デザインetcのはなし]

すいません。随分と間が空いてしまいましたが…
これで完結です。

ちょっと間が空いたのには、理由がありまして…
私が活版印刷に興味を持つきっかけとなった父方の伯父が
なぜ活版印刷を自宅でしていたのか…ずっと疑問だったので
お盆休みに父方の実家に出かけ、
今さらながらではありましたが、伯母などに詳しく聞いてきたのでした。
その話については最後に…

さて、活版印刷に熱を上げ始めた私。
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2012-08-05

「なにわ活版研究所」さん
http://kappan.did.co.jp/

で、開催の活版印刷のワークショップに思い切って参加することにしたのでした。
はるばる大阪までの遠征でした。
http://yukiwochannel.blog.so-net.ne.jp/2012-08-07

さて、ワークショップでもう1つ楽しみだったのが…

「箔押し」

仕事柄、上品な雰囲気のダイレクトメールなどに
よく使う「箔押し」の加工。

「おなじみの加工なんです」

でも…そんなおなじみの加工が…

「自分の手でできるなんてまたとない機会」

ということで今回、箔押しも体験させていただきました。

なに活WS_5.jpg

様々な機械が並んでいて、これまたテンションが上がります。

まずは…難易度の比較的低い紙への箔押しから。

実は先日、友人より素敵なプレゼントをいただいたので、
そのお返しに何が良いかなと思ったのですが…
「そうだ!友人の星座のモチーフを箔押ししたカードを贈ろう」

ということで、蠍座のモチーフを箔押しにチャレンジ。

なに活WS_5_2.jpg

使わせていただいた機械がこちら。
幅広のリボンタイプの金色の箔のシートが
セットされており、熱した版を押しつけ
箔を定着させるという仕組みです。

紙を色々変えて、箔押ししました。
なに活WS_5_3.jpg

「ベースの紙が違うと、また雰囲気も違いますね」

この試行錯誤がまた楽しいです。

続いては…

「鉛筆への名入れ」

そう、名前を金色の文字で入れようという訳です。

なに活WS_5_4.jpg

使わせていただいた機械はこちらです。

なに活WS_5_6.jpg

さて、名入れをするには…名前の版を作らないといけません。
ということで、まずは活字をひろいながら、名入れしたい文字を組みます。

なに活WS_5_5.jpg

「はい、まさに文字組みとはこのことですね」

普段だったら、Macの画面でイラストレーター等のグラフィックソフトで
キーボードで入力した文字をカーソルで動かしたりするのが常の私。

「1文字、1文字の重みが違いますよ」

で、試し押しの鉛筆に最初チャレンジすると…

「ん…天地の文字がかすれ気味?」

少し押しが足りないかな?

という具合に、試行錯誤して…できたのがこちら。

なに活WS_5_7.jpg

ついついカラフルな色をチョイスして押してみましたが…

「やはり、自分の名前が入った鉛筆には愛着が湧きますね」

ちなみに1本だけ黒い鉛筆がありますが…
こちらは、Black Wingという鉛筆。
実はちょっと通好みの鉛筆でして…
 
Eberhard Faber社が1930年代から1998年まで製造、販売していた鉛筆で
作家、作詞家、建築家等 のクリエイター達が
そのアイデアを書き留めるために使われていたのだとか。
そのため、復刻した現在でもクリエイター人気が高い鉛筆で
また今でも当時の鉛筆が1本$40という価格で売買されたりするという
いわゆる「伝説の鉛筆」なんです。
そんな伝説の鉛筆をCRS(California Republic Staitioners) が調査とテスト重て
徹底的に書き味にこだわり、
2010年にアメリカで 「PALOMINO BLACK WING」として
そして2011年「PALOMINO BLACK WING 602」という新しい名前で蘇ったとのこと。

「素敵な歴史のある鉛筆なんです」

という訳で思わず1本、私の手元に引き寄せました。

そして…もうひとつ。

なに活WS_5_1.jpg

「エンボス」
裏面を押し上げて浮かす加工。それがエンボスです。

今回は動物の肉球と鳥のシルエットを…

できたエンボスに、指で触れると…

「ぷっくりと立体的になっているのよ」

思わずふにふに触れてしまいます。

ワークショップが終わった後は参加されていた方と
お話させていただきました。

すでに手フート印刷機を持っていらっしゃって
実際に使われている方とも
お話させていただいたり、
大変楽しい刺激をいただきました。

あ、そうそう…スタッフの方と紙の話になった時に
ついつい盛り上がってしまって…止まらない紙話。

活版印刷からは脱線しますが…

「紙の名前って面白いんですよね」

先日も、海外のフライヤー風の質感の紙を会社で取り扱ったのですが…
その名前が凄かった。その名も…

image-20120909133930.png

「ラフシリーズ」

ラフな紙ですよ(笑)言い得てるなと。

思えば紀州の色上質も名前も日本の身近にあるものから
色の名前が付いていたりして…面白いんですよね。

image-20120909133956.png

「レモンとか、コスモス、あじさいとかね…」

ちなみに…活版印刷のスタッフさんは
「桃はだ」がお気に入りの紙だそうです。
という訳で…その桃はだを含む…

なに活WS_10.jpg

「紙の見本をいただいてしまいました」

嬉しい。大切に保管します。

活版印刷したカード達、
名入れした鉛筆と箔押しやエンボスをかけたカード、
そして豊富な紙見本などをバッグに詰め込んで
大阪を後にした私。

「また活版印刷のワークショップに参加できると良いなぁ」

他にも色々な思いを抱きつつ、家路についたのでした。

なにわ活版研究所さんにはこの度のワークショップで大変にお世話になりました。
本当にありがとうございました。
そしてまた機会を見つけて、ぜひ再び御邪魔したいと思っています。

さて、ワークショップを体験してから数週間後…
お盆休みに父方の実家に出かけ、
久しぶりに伯母に逢うことができました。
近況の話をしながらも、思い切って聞いてみたのは

「伯父がなぜ活版印刷をしていたのか」

『あれは全部、ヨっちゃん(伯父はよしひろ)が揃えたんよ』

「え!」

実は伯父。30代の頃は地元の印刷会社に勤めていたのです。
当時は活版印刷の需要もあったことから、自宅の門にあった
納戸の中に自分活版印刷の機械などを購入し、機材を揃えて刷っていたのだとか。

「え!あれ、全部伯父さんが揃えたの?」

小さい頃の記憶なのでうろ覚えではありますが…
その納戸の片面の壁の半分は活字で埋まった棚だったと記憶しています。
今あれだけを揃えるとなったら…

「一体、いくらかかるの?」

色々な意味で凄いな…伯父。
いや、伯父さんが会社員だったことは
もちろん認識していたけど…まさか印刷会社だったとは。

「だって、当時、中学、高校生だった私はそんな伯父や伯母の仕事の話などしないし
 それにたしか私が高校、短大生の頃には伯父も転職してたのよね」

そして伯母からもうひとつ衝撃的な言葉が…

『だって、私のところの年賀状や喪中ハガキは
 ヨっちゃん(伯父)が刷っていたのよ』

「えぇ?!」

私、全然知らなかった…
ということは…実家の本棚捜索したら…

「出てくるんじゃないのか?伯父が刷った年賀状」

我が母は年賀状とかあまり捨てないタイプだから(あくまで想像)
そしてなぜ、あの納戸が開いたタイミングに私がいたのかが
なんとなく予想ができました。

というのも、私が高校生の頃ぐらいまでは、
父方の実家で親戚そろって年末に餅つきをするのが恒例で
そんな頃と言えば、喪中ハガキを刷る時期。
庭で餅つき用の餅米を蒸していた時に両親や祖母と火の番をしていた私が
たぶん、伯父が納戸で活字を組み、印刷しているのを
目的したのではないかと。

「あの時、伯父が手にしていたのは名刺のような小さいサイズではなく
 大きめのハガキサイズだったし、文字がたくさん並んでいた」

そうだ、そうに違いない。

ただ…悔やまれるのは…

「その伯父の使っていた活版機は、影も形もないこと」

春に納戸を開けたら…
そこには、がらんと空いたただの納戸になっていました。

伯父はもう数年前に亡くなり…
その後、2番目の伯父が処分したという結末です。

「・・・・・・。」

この件については色々ありまして…
私も父も手を出せない状況だったので
もう仕方ないと言えば仕方ないのです。
残念ではありますが。

私も伯父と活版印刷の件については
この日、初めて伯母にきちんと聞き直したので
伯母も少々驚いていて
「どうしてまた改まってその話を?」
と伯母が不思議がるので訳をかいつまんで話をしました。

伯母は今の時代にまた活版印刷が見直されていることに
大変驚いていました。
とはいえ、お盆でしたので…

『ヨっちゃん(伯父)も、姪っ子が小さい頃の記憶をたどって
 思い出してくれているんだから…あの世で喜んでいるわよ』

と言うので、思わず私も涙ぐんでしまいました。

あの時、ああしてれば、こうしてたら…という「れば、たら」は
普段からあまり好きではなく、過去を振り返らない私ですが…
この活版機が処分されていた件だけは、やはり今でも少し悔いています。
機械は大きさの関係もあるのでダメだったとしても…
せめて活字だけでも私が残してあげたかったなと。

ま、でも終わってしまったことで
今はもう受け入れるしかないのが現実です。

お盆休みはそんな訳で、伯父のことが分かり
ちょっと心の中のモヤモヤが取れたのでした。
そして少しずつではありますが
活版印刷のことを勉強しようと思い始めたのでした。

かなりタイムラグがありましたが
初めての活版印刷のワークショップのお話はこれにておしまいです。
つたない長文におつきあいくださった皆様、ありがとうございます。

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tomoko

身内とは偶然では説明しきれない、
不思議な縁を感じたりすることがありますよね。
伯父さん、ユキヲさんがルーツを辿られたこと
きっと喜んでらっしゃるんじゃないかなぁと思いました。
ユキヲさんの残念さはものすごく伝わってきましたが、
それ以上の、すごくステキなエピソードにちょっとトリハダでした。
by tomoko (2012-09-24 01:06) 

ユキヲ

>tomokoさん
コメントありがとうございます。
お返事が遅くなり大変申し訳ありませんでした。

伯父は生涯独身でした。
なので、私も含め、姪っ子達は伯父によく可愛がられておりました。
そんな伯父はいつも私達の遊び相手になってくれて
テレビゲームを一緒にやったりと「遊んだ」思い出しかなくて
私達が社会人になった頃には、伯父もパーキンソン病を発症したりと
なかなか社会人として話す機会もなくなり、
結局、活版印刷のことも詳しく聞けずに伯父を見送ることに
なってしまいました。
もっと色々な話を聞いておけば良かったとそれも悔やんでいます。
失ったものは元には戻りませんが、
私もこうして少しずつ活版印刷に触れることで
伯父の背中を追うことはできる訳ですし
何より、活版印刷の奥深さを面白さに目覚めた今は
色々と資料を集めたり、経験者の方からお話を聞いたりして
活版印刷の知識を深めている最中です。
少しずつですが自分の手で活版印刷を通して
何か創り出すことができたら良いなと思っています。

by ユキヲ (2012-10-02 20:53) 

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