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「刈谷市美術館:安野光雅の絵本展」 [展覧会のはなし]

昨年の話です。それも夏の話。
それでも、いつかは書こうと思って
結果、年越ししてしまいました。

「情けない…」

とはいえ、手元に感想メモが残っているので
書いてみようと思います。
その中のメモで今日にもつながる一言があったので…

2011年7月16日~8月28日まで
刈谷市美術館で開催されていた

「安野光雅の絵本展」

絵本をよく手に取られる方ならご存知の名前かもしれません。

創作活動40年以上。
画家、装丁家そして絵本作家として、
精力的に活動を続けていらっしゃる安野光雅さん。

以前にも2007年3月24日~4月10日に
松坂屋美術館で開催されたことがあり
そちらには仕事に終わった後に向かって
鑑賞したことがありました。

私はトリックアート大好きなのですが…
そんな私が安野さんの存在を知る事になったのも
そもそもは、そのトリックアートにも通じる卓越した構成力。
最初観た時には
「絵本でこのクオリティー…それは子どもにも人気があるはず」
と唸ってしまったのでした。

例えば「ABCの本」という絵本があるのですが
木材で形作られたアルファベット…
一見すると普通に見えますが…よくよく見ると…

安野光雅2.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

「はっ…何かが、おかしい」

と、なる訳です。

こちらの本。海外でもとても人気があるのですが
それについては面白い話があり
ケイト・グリーナウェイ賞という
イギリスで出版された絵本のうち、特にすぐれたものの画家に
対して贈られる賞なのだそうですが
こちらの審査員が、安野さんを日本人だとは知らずに
受賞者に選んでしまったという話があります。
こちらの賞は、最初に出版されたのがイギリス国内
という受賞規定のため大賞はもらえなかったのですが
英国出版に協力した編集者がかけあって
特別賞を受賞したんだとか。
(その編集者が現在はビアトリクス・ポターの研究者として
 著名なジュディ・テーラー氏なのだとか)

視覚的に立体的な見方が発達する未就学時の頃などには
この本を見れば見るほど
「どうして?」となって、より引きつけられることでしょう。

そんな安野さんの原画がたくさん展示されている
「安野光雅の絵本展」
こちらの開催を知ったのはもうすでに会期も佳境にさしかかった頃。

「これは行かねば」とあわてて休暇を取り出かけたのでした。



8月13日
午前中出発して、刈谷駅で下車して
日傘をさして、歩いて向かうは刈谷市美術館。
この日も猛暑で朝からひどく暑い日でした。

到着して空調の効いた美術館へ足を踏み入れると…

最初に出迎えてくれたのは、私の大好きな
トリックアートを随所に見ることができる。

「ふしぎ・ABC」のフロアでした。

階段、壁面、道路などなど…

ぱっと見ると普通の絵…
ところが…
つなぎ目や角からたどっていくと…

安野光雅1.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

「あれ?」

この不思議な感覚が観ていて楽しい。

夏休みということもあって
会場内には保護者の方々と一緒に来場した
小学生ぐらいの子ども達が
首をかしげたり、指をさしてたどってみたり…
そのリアクションも様々。
まるでお子様誘導エリアと化していたのが
その原画のポイントポイントに配置されていた
「絵本」
すっかり安野ワールドにはまっている様子。

私もあらためてABCの本の日本版とも言える

「あいうえおの本」

の奥深さを再認識。

安野光雅3.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

それぞれのひらがなを彩る枠には
日本でもなじみの深い植物が並び
そして…それぞれの1文字から始まる
単語のモノへの描写がまたヒネリが効いていて…

「これ、私が生まれた年に出版された本だなんて…」

今観ても新鮮でワクワクするのよね。

あとは「もりのえほん」

安野光雅4.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

以前に松坂屋美術館で開催された展覧会で
私が観た時にこの「もりのえほん」の原画を
相当じっくり観てしまい、最後のエリアに
展示してあった作品が満足に見る事ができなかったという
そんな思い出もある原画。

もちろん…私の前後で鑑賞していた子ども達も
樹木や覆われた若葉の中に
動物を見つけては近くにいたお母さんなどに
「ココだよ、ココ」と教えている。

「教えたくなるよね…この絵は」

全体的に緑色なので、目にも優しいせいか
観ていると穏やかな気持ちにもなれる
そんな絵本。

「でも、やっぱり探してしまうんよね…」

いかん、いかん。やっぱり気が休まらない(笑)

続いて足を踏み入れたフロアは

「旅の絵本」の原画が展示されているフロア。

ここには、安野氏がヨーロッパを旅行した際、
飛行機が着陸する直前に座席から観えた
外の風景に心を奪われた、そんな出来事から
派生して、生まれた絵本。
そんな訳で絵本の視点は鳥瞰図のようなスタイル。
文字はない絵本ながら
そこにはある旅人がその土地を訪れていくという
小さなストーリーも絡められて…
その土地ならではのエピソードも
安野氏の朗らかな心を垣間みるかのように
ちらりと画面で魅せているところが
私もお気に入りです。

イタリア、イギリス、スペインなど…
その土地のバックグラウンドが分かると
よりこの本が楽しめます。

とはいえ、本の最後の方にはその種明かしとも言える
解説があります。
とはいえ、ぜひ最初は読まずに
絵だけを見ることをおすすめしますよ。

私のツボだったところはスペイン。
例えば…

安野光雅5.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

芸術家のサルバトーレ・ダリが生まれた
フィゲラスの浜辺の屋根に
あのダリの代表作である「柔らかい時計」が
貼り付いているんです。

他にもカルメン、ドンキホーテ…

安野光雅6.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

そしてピカソの作品が登場したりと…

「知っていると…思わずニヤリ」

笑いながら観ていたので、きっと周りにいた人は
「?」と気味悪がっていたに違いないでしょう。

そして続いて登場するのが…

「美しい数学」というフロア。

安野氏が趣向を凝らした
数字と結びついた素敵な絵本達の原画が並びます。

「小さい頃にこれに出会ってたら
 もっと数字と仲良くなれたかも…」

そんな風にも感じました。

ただ、個人的にとても印象に残った数字の絵本がありました。

それが…「ふしぎなたね」

ある男性が2つの種をもらい、1つは食べて、1つは土に植えます。
すると翌年は、2つの種になり…
それを繰り返すうちに種を売ったり、蓄えたりする男性。
安野氏いわく
「農作物が余った時に、商売や計算が必要になり
 文明がはじまり、戦いが生まれた」とのこと。
現実の世界のことが、「種」というシンプルなモチーフで
多くのことを語っているのだなと、あらためて心を打ちます。

しかし、そのバックグラウンドを知った私が
それを無にして特に印象に残ったのが
最後にかけての場面。

種を貯蔵庫に蓄え、妻そして子どもと
家族ができた男性のもとに嵐が到来。
小屋などにたくさん貯蔵してあった種は
濁流に流され、僅かな種と、彼らの命が残ります。
その過程が、なんとなく東日本大震災などとリンクし
次第に、心をしめつけられた私。

安野光雅7.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

そして、何もなくなってしまった土地へ
彼らがその手元に残った僅かな種をまいて
豊作を願う彼らのラストの場面。
安野氏の画力故でしょうか?それとも…
この構図がミレーの「晩鐘」とリンクしているからでしょうか?
その荘厳な雰囲気漂うラストには心が揺さぶられ…
しばらくその場面を描いた原画から
立ち去ることができませんでした。

「科学と物語」のフロアでは
「天動説の絵本」の原画が登場し
天動説から地動説へと考えが変わるまでの話しが
丁寧に描かれており歴史に刻まれた現在への
空と大地との関係の壮大さを感じ…

安野光雅8.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

そして「蚤の市」という本の中では
様々な人や雑貨などが登場し
とても賑やかな場面に。

安野光雅9.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

さらに「古典への挑戦」とされたフロアには
平家物語、シェイクスピア、三国志などを
題材にした絵本の原画を展示。
安野氏のその豊かな表現力で、それぞれの場面が
より強く心に響きます。

安野光雅10.jpg
※図録に掲載されていたものを撮影しました。

最後のフロアには「物語のある風景」と題して
風景のスケッチを展示。
その土地の持つ「空気感」が安野氏の軽やかなタッチとともに
こちらにも、その空気がふんわりと伝わってくるそんな空間でした。

本当、どのフロアを観ても
思わず1歩踏み込んで、原画の世界に飛び込みたくなるほど
素敵な原画ばかりでした。

案の定、図録をお買い上げして
疲れた時など、時々眺めています。

こちらの展覧会。大回顧展となっており
この刈谷市美術館の展示が終わってからも
横浜、福岡と巡回し、
現在は板橋区立美術館で、3月25日まで展示され
最後は、秋田県立近代美術館へ巡回します。

とはいえ、いつかは島根県にある
「津和野町立安野光雅美術館」に出かけたいものです。
http://www.town.tsuwano.lg.jp/anbi/anbi.html

さて、安野光雅の絵本の世界を堪能した後は…

「版画の世界に飛び込む」

この日、展覧会のハシゴをしました。
また時間をみてその話は書いていきたいと思います。
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菜の花

素敵なブログ、ありがとうございます!
安野氏の絵本は、長兄が『ふしぎなえ』を保育園年長の時、帰省土産にもらいました。『天動説の絵本』は、も少し大きくなってから、同じく帰省土産で。

昨年夏、帰省した彼氏(現・夫)と一緒に刈谷で展覧会を観てきました。
時を経て、感慨深いものがありました。
時間を共有できた、うれしさ、というか。。。。

『えほんの森のこどもたち』(byフックブックロー)になるなら、
きっと、このさまざまな原画たちの中に入りたいものですね!
by 菜の花 (2012-03-25 21:55) 

ユキヲ

>菜の花さんへ
コメントありがとうございます。
お返事が遅くなりすみませんでした。

絵本には人それぞれ、思い出がありますが
菜の花さんもいろいろと思い出があるのですね。

本当、「えほんの森のこどもたち」になれたら
これほど楽しい絵本はないでしょうね( ´ ▿ ` )

安野さんの引き出しの多さというか…
時に子どもに、時に大人な目線というか着眼点が
非常に興味深く、以前に開催された松坂屋美術館でも
すっかり虜になってしまったことをまるで昨日のことのように
思い出します。

刈谷市美術館は、名古屋から離れた立地でありながら
毎回、親子で楽しめるような素敵な企画展が多いので
私もよくチェックする美術館です。

by ユキヲ (2012-03-31 20:52) 

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