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「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」 [展覧会のはなし]

これも書きたくて、書きたくて仕方がなかったのに…
「すっかり書くタイミングを逃してしまいました」

仕方ないです。
ちょうど自分が参加している企画展の開催期間中だったので(苦笑)
おまけに繁忙期も…ええ、今だ続いています(´□`。)

さて、愚痴はこれぐらいにして(笑)書いてみましょう。

「智積院講堂襖絵完成記念 田渕俊夫展」
ジェイアール名古屋タカシマヤ
2009年3月11日(水)~3月16日(月)
http://www.chisan.or.jp/tabuchi_toshio.html

以前に、田渕俊夫さんが今回展示された襖絵が完成するまでを追った
映像が、「新日曜美術館」で紹介されていたのですが
番組内では詳しい制作工程や技法などが紹介されており
その計算された構図だったりが非常に面白くて…
とはいえ、一番印象的だったのは…
「四季折々の風景を浮かび上がらせようと
 墨をふくませた筆で、少しずつ、少しずつ影をつけていく姿」
これには、思わず釘付けに…

5年余りかけて完成したその襖絵は、時に美しく、時に厳しい
四季の移り変わりが描かれており
ますます、テレビのモニタから目がはなせなくなり
しばし見とれておりました。

番組の最後の紹介で、名古屋でも展示されることを知り
「これは絶対に観にいかなくては」
と思い、思い切って出かけたのでした。


3月12日(木)
会場に入場し、最初に目に入ったのは春の風景。
花びらの影しか描かれていないはずのその襖絵には…
「見事なしだれ桜が、こぼれんばかりの花をつけてそこに立っている」
まだ、この頃は3月中旬で桜のつぼみもまだまだ固かったこともあり…
会場には、一足早い春が来たよう。
それに墨一色で描かれているせいか
夜の風景に妖艶な雰囲気を漂わせる満開の夜桜にも思えて
想像をかき立てられます。

その向かいは逆に冬の厳しい山間の風景。
ぼんやりと浮かぶ月に、なんとなく物悲しさを感じながらも
桜の咲く春を迎えるために…
忍耐強く、じっと待っているようにも見える、
そんな内にある生命力を感じる作品でした。

そして次は夏…
どこからかクマゼミの鳴き声が聴こえてきそうな
存在感のある大きなけやきの木が最初にインパクトを与えます。
そして別の襖絵には瑞々しい「めたけ」の姿が。
「なんともすがすがしい…」
他の襖絵と違い、輪郭をはっきりと線で表現されているせいか
めたけが空へとのびる姿が勢いよく感じられ
観ているこちらの背筋もしゃきっと伸びる気がしました。

続いては秋…
右手から左手にかけて
穂を出した若いススキが、時間の経過により枯れゆく様が
見事に描かれており、これには思わず息をのみました。
観ているうちに、少し肌寒い秋風を感じられるようなその空気感。
もう圧巻でした。

その襖絵の向かいにあったのは…
1本の柿の木を描いた襖絵。(図録に掲載された作品を撮影しました)
田淵俊夫1.jpg
襖絵の脇には、作者の田渕さんによるひと言が添えられていました。

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入り口に描いた柿の木は洛北大原の里で写生したものです。
せっかくたわわに実を付けた柿の木も、
いつの間にか人々に見向きもされなくなる、
そんな寂しさを感じました。
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そんな文書を読み終え、最初は私も普通に眺めていたのですが…
しだいに父方の祖母の家にあった柿の木の風景がだぶり…
元気だった祖母と今の寝たきりの祖母が交差して…
そして今年のお正月に時折見せた笑顔が脳裏に浮かび
胸がいっぱいに…

本当、久しぶりに作品を観て涙がこぼれそうになりました。

どうしてあんなに心をわしづかみにされたのか…
家に戻ってからずっと考えていたのですが
やはり…「墨のチカラ」かなと。

墨一色の世界だからこそ、人それぞれの目を通していくうちに
これらの襖絵は、人それぞれの思い出や原風景の色がつけられて
そして、時に強く、時に優しく訴えかけるのではないかと。


いやはや…すばらしい作品を間近で観ることができ
非常に心が満たされた、ひとときでした。

ちなみに…私は元々、現代アートやグラフィックが好きなので
変な話…日本画や古典的な展覧会に出かけても
よっぽどのことがない限りは図録を買わないのですが
この日はどういう訳か自然と図録を手に取り…
他にもポストカードなどをお買上げしました。
田淵俊夫2.jpg
どれも本当に素敵で…ここまで絞り込むのに随分と悩みました(笑)
ちょっと疲れた時にはこの墨の絵の世界に癒されそうです。

そういえば、先日…久しぶりに実家に帰ったら
父と田渕俊夫さんの話になり
昔、趣味で油絵と日本画をやっていた父は
(注:職場で絵画クラブというのがあったそう)
当時、時間に余裕があり、観たい展覧会があると
名古屋まで観に行ってたのですが
『田渕さん…当時、愛知県立芸大の先生やってたこともあって
 あれは日展だったか、院展だったか…
 名古屋会場では作品解説を引き受けて
 入場者に説明していたところをたしか自分も見聞きしたぞ』
とのこと。

「へぇー」

思わぬところで父と田渕さんの話題で会話がはずみました。
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whitered

素敵な展覧会でしたね。智積院には、行ったことがあります。美しいお庭のあるお寺でした。墨絵はときとして、鮮やかな色にも及ばない心象的な色を想像することがありますね。四季のうつろいを墨絵で表すのは、技量のいることだと思います。身近なところに田淵さんのシンパシーがおられましたね。
by whitered (2009-04-14 20:27) 

ユキヲ

>whiteredさんへ
nice&コメントありがとうございます。
私はあまり日本画には詳しくないのですが今回の作品を
テレビで観て以来、いてもたってもいられず会場に向かいました。
会場で間近にあの襖絵を観て、智積院の空間におさまった状態でも
もう一度観てみたいなと思いました。
テレビでは何枚もにわたってスケッチされた植物や木々が
田渕さんの手で紹介されていましたが…
この1枚、1枚の積み重ねがあっての、
あの大作なんだろうなと、実際の作品を目にして
身にしみて感じました。
父から聞いたエピソードは非常に意外で…
とはいえ、楽しいものでした。
父は東山魁夷などの日本画の方が好みで…
田渕さんのことを知っているのもよくよく考えれば
納得でありました(^^;)


by ユキヲ (2009-04-15 00:08) 

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